2025年7月20日日曜日

奇のくに風土記

7.19 参議院選挙期日前投票してから花森書林に出勤。海文堂ファンの皆さんが続々来店される。ありがとうございます。海文堂閉店の日、店長挨拶時の写真に写っている方がいらした。飲み仲間・みのさんは5年ぶりくらい。尼崎の古本屋さんから拙著購入を依頼された方、ご苦労様です。サインして、記念写真、結構忙しい。常連しまきよさん、ご機嫌悪い。花森だるまちゃん家族にも久しぶりに会えた。

 東京版元友人が新刊を送ってくださる。台湾の歴史・文学・伝承研究書。深く感謝。

 

 木内昇 『奇のくに風土記』 実業之日本社 2000円+税



 幕末紀州藩の本草学者・畔田翠山(くろだ・すいざん、17921859)の若き日の姿を描く時代小説。

畔田十兵衛は下級藩士の生まれ。藩医・小原桃洞(おはら・とうどう)に本草学を学び、藩の薬園管理を手伝う。十兵衛は植物と語らうことはできるが、人との付き合いは苦手。桃洞の孫・良直(よしなお)は年下ながら十兵衛にちょっかいを出し、塾生や他の学者とも交わるように促す。

 早朝、十兵衛は一人採集のため山に入る。背中から物音、熊か? 熊笹の隙間から緑色の目が覗いている。お互いに「やっ」と大きな声をあげてしまう。相手が出てきた。

〈十兵衛は声を吞む。/天狗(てんぎゃん)だ。(略、修験者のような姿、手にヤツデを持つが、背丈は十兵衛より小さく、顔もあどけない)/「おめには、おらが見えるか」/天狗がやにわに訊いてきた。ひとつ唾(つば)を飲んでから十兵衛が頷(うなず)くと、「そうか。おらが、見えるだか」(後略)〉

天狗は自分が十兵衛にどう見えているのか気にする。この山が「紀(き)様」の山で、かの方を慕うさまざまな生き物が棲みついている山、と説明。十兵衛は珍しい草木を持ち帰って師匠に見せたい、と打ち明ける。天狗は楠にまとわりついている蔓を手渡し、雨が降るから早く下山せよ、と促す。天狗は大男に変じていた。

以来、十兵衛の前に草花の精が現れたり、葛の蔓から亡父が降りてきたり、不思議な出来事が起きる。

 紀州の博物学者といえば南方熊楠を思い浮かべる。両者に直接つながりはないが、フィールドワークや書誌編纂など博物学者のスタイルは共通。

(平野)