2025年11月22日土曜日

夏鶯

11.18 今日は歯科診療。帰宅して年末飲み会案内文作成。ぼーっとしていても飲み会は忘れない。

 記載忘れ、11.16「朝日歌壇」より。

〈窓に寄り子らは手を振るまた来てと絵本読み終え帰る私に (名古屋市)磯前睦子〉

〈どの店も薬缶湯気たて猫がいた百万遍の古書店街は (大和郡山市)四方護〉

11.20 飲み会案内を飲兵衛諸氏に送信。柄ではなのだけれど、依頼されていた文化基金応募推薦文をやっつける。頼りないヂヂイの推薦でよいのかしら?

BIG ISSUE515、特集「わたしの隣人 エスニックマイノリティ」。

 


赤神 諒 『夏鶯』 集英社 2300円+税

あかがみ りょう、なつうぐいす



慶応4111日(陽暦1868.2.4)西国街道神戸村三宮神社前で岡山備前藩の行列を外国人兵士が横切り紛争。双方が発砲し、外国人3名負傷。周辺地域と港を外国の軍隊が占領する事態になった。明治新政府初の国際外交事件。備前藩の砲兵隊責任者・瀧善三郎が切腹して収まった。「神戸事件」である。

本書は「神戸事件」をもとに「武士」の生き様を描くが、瀧善三郎について詳しい記録が残っていないこともあり、ほとんど創作。事件は「三宮事変」、藩名、人名すべて変えている。

吉備藩士・滝田蓮三郎は同藩家老・戸木(へき)家の家臣。父は砲術師、殿の御前で大砲試し打ちに失敗(のちに藩内の権力争いによる陰謀と判明)、責任を取り自死(餓死)。蓮三郎は文武に秀でた俊英、将来の藩を背負う人材と期待された。学問と医術の師・抱節は弟子たちに「世の春を告げる鶯となれ」と教育してきたが、蓮三郎は「鳳になる」と宣言。17歳で岡山城に出仕するも、故あって」死罪となるところを剣の師・尾瀬成之介が身代わりに切腹(読者は権力者の陰謀とわかるが詳細不明、最後に明かされる)し、永蟄居(無期懲役)。蓮三郎は故郷金谷(かなや)で幽閉の身、「大兀僧(おおがつそう、見苦しいほど髪を伸ばした姿)」と世間に蔑まれる。母、兄、幼なじみの尾瀬準之介・信乃兄妹に見守られ、晴耕雨読、農業研究、外国事情など勉学、医術に励む。近隣の若者らが学び、次第に認められていく。コロリ治療から感染、抱節に助けられる。その抱節がコロリで死亡。墓前で、準之介と信乃に語る。

「先生は、いつでも死ねる覚悟で毎日を生きとられたけど、俺は破れかぶれなだけじゃった。心のどこかで、じきに赦免が出て、鳳のごとく羽ばたいて、世の中を変えられると、未練がましゅう考えとった。じゃけど、現実は違う。生きながらえんのは、思い罰じゃった。(後略)」

 世に必要とされる日が来るか来ないか、天に任せる。今日その日が来てもすぐに役立てるよう胆を練り続ける、と。

「これより俺は、真の武士となるべく精進を重ねる。昔立てた志のとおり吉備一、天下一の武士になってみせる。鳳じゃーねぇ。抱節先生に敬意を表して、鶯じゃ。準さん、この金谷にゃーいつでも啼ける鶯が一羽いる思うてくれ」

準之介を通じて藩政に献策し難題を解決、縁ある京の僧侶や公家と交流する。恩赦の機会が訪れるたびに、権力者が邪魔をする。倒幕の機運が高まるなか、ついに15年ぶりに出仕が叶う。その任務は……

瀧善三郎がモデルということは、読者は主人公の最期をわかって読むことになる。重い罰を受けながら世に貢献し弟子を育てるが、恩赦は何度も立ち消えるという過酷な宿命を受け入れた。武士として命をまでさし出した。読み進めるのが辛い。

春啼く鶯が「夏鶯」? 切腹は冬だし。これも最後の最後でオチが着く。

著者は上智大学法科大学院教授、弁護士。「小説で町おこしをめざす歴史・時代小説の作家」(朝日新聞2025.11.18「ひと」欄)、大分、岡山、福井、群馬などを舞台に創作。本書の会話は岡山弁。



(平野)