11.4 外出中の新聞。2日「朝日俳壇」「歌壇」より。
〈少年は詩に育まれ星月夜 (横浜市)長谷川水素〉
〈海坂藩の秋をさがしに旅に出ん庄内柿の渋ぬける頃 (仙台市)沼沢修〉
〈別れ際家に帰ると言う父の亡骸だけを書斎に戻す (京都府)片山正寛〉
11.5 孫電話。姉に法事の席で「猫かぶった」かどうか(おとなしくできたという意味で使っている)尋ねると、「かぶらなかったー」の答え。幼少時にむずがって、お坊さんに退場を促されたことがあって、それ以来大事な席ではママに「猫かぶってなさい」と言われている。もう分別があるから大丈夫。
11.7 九州在住幼なじみが拙著紹介「読売書評」コピーを送ってくれる。心配りに感謝。
筒井康隆掌篇小説「おれ」(「波」11月号掲載)の舞台は神戸元町。筒井は元町駅で「おれ」に遭う。筒井作品にたびたび登場する「おれ」。筒井にぼやく。
「だいたいにおいてどの作品でもおれは虚しいか、情けないか、酷い目に遭うかで、時には死んじまったりもする。(中略)それが六十五年も続いてみろ。ほとほと嫌になる。たまにはいい目をさせてくれと言いたくなるじゃないか。(後略)」
筒井も「無理もない」と思う。「おれ」の言う「いい目」とは、いい酒、ゆっくりディナー、いい女。言う通りにしてやる。ポン引き「元町駅のおっさん」に理想的女性を紹介してもらい、幸せな時間を過ごしたはず。「おれ」の希望は叶えられたのだが、不満だ。その理由は?
作者が文章で表現しなければ作中人物は「いい目」を感じ取れない。特に女性とのラブシーンは具体的詳細濃密に「表現されない限りおれの快感はおれには感じられないんだ」。でも、それをすれば筒井作品は発禁になり、仕事を失う。「そんなこと書けるもんか」。
(平野)