2024年1月28日日曜日

中世荘園の様相

1.23 この冬一番の冷え込みか? ヂヂのバロメーターは早朝の洗濯干し。指先がちぎれるほと感じるような寒さ・冷たさではないけれど、身体にはこたえる。

 図書館調べ物。1926(大正15)年7月の神戸三越開店の記事。対抗か、元町商店の広告目立つ。海文堂の出版広告もあった。

 元町商店街150年記念、商店街各丁で懐かしい写真や商店の変遷を展示中。

 


1.25 臨時出勤、西明石。寒い冷たいけど、枯葉は落ちきっていて掃除はラク。

1.27 寒さ少し和らぐ。BIG ISSUE471。特集は「一期一会、新種発見」、2020年、島根県の港の岸壁で4歳の男の子が「なんかおるよ」と、小さな小さなヨコエビ(4ミリ)を発見。お父さん(生物写真家)が大阪の研究者に送ったところ、翌年新種と論文に発表された。和名「チゴケスベヨコエビ」。



 本屋さん。だいぶ前から棚を探せなくて、検索機のお世話になる。でもね、漢字変換間違えて、該当なしと嫌われる。

 網野善彦 『中世荘園の様相』 岩波文庫 1230円+税



 網野没後20年。日本中世史の著作は本屋としてうれしく販売させてもらった。本書は網野の「研究の原点」である荘園史研究論文を基礎にしたもの。

 11世紀から15世紀、平安時代から室町時代、若狭国太良荘(たらのしょう)が舞台。領主、地頭の支配から京都東寺の荘園になる。その代官や僧たち、幕府の地頭に北条家得宗、地元の名主職(みょうしゅしき)たち――権利が売買されたり分割したり複雑、他にも利権を持つ「職」がある――、高利貸し、山伏、一般農民、利権者の血縁に養子、多くの人たちが利権をめぐって絡み合う。それに戦乱も。訴状など古文書が長く保存されていた。

〈これからのべてみようとするのは、中世のある小さな荘園――若狭国太良荘(現在小浜市太良庄)を舞台に生きた人々の歴史である。ほかの多くの荘園と同様、この荘園も中世を通じて歴史の本舞台となることはなかった。だから、およそ三百年もの間、生命を保ったこの荘園に現われる多くの人たちも、またほとんどが名もしれぬ人々である。(中略)しかし、この人たちもまた、それぞれそれなりの課題を担って生きていた。そして、その解決のための格闘は、小さいながら社会を動かす力となり、日本の中世史の一こまをつくり上げていったはずである。(後略)〉

 その課題とそれぞれの関係、解決のための闘い、その結果まで。

(平野)専門論文だからヂヂにはチト難解。歴史用語がわからん、漢字読めない。ぼやーと読み終わる。裁断ミスの「福紙」あり。

2024年1月23日火曜日

文庫旅館で待つ本は

1.20 図書館で新聞マイクロフィルム閲覧。よくあることで、目的外の記事が見つかる。じっくり探せばいろいろ出てくるのだけれど、ついつい駆け足。

 内科受診。午後買い物、雨模様ゆえ「BIG ISSUE」販売員さん見かけず。本屋さんで文庫と雑誌。

1.21 「朝日歌壇」より。

〈図書館で働く人も七割が非正規と聞く本が泣いている (菊池市)神谷紀美子〉

〈図書館船の就航を待つ瀬戸内に浮かぶ小さな島々の子ら (観音寺市)篠原俊則〉

 友人・アリス(自称)からメール、新聞記事届く。112日関西学院大学で仙台出版社「荒蝦夷」代表・土方正志が講演、「震災と文学――仙台短編文学賞の7年から」。アリスは聴講。ヂヂは仕事で参加できず、残念。

 


1.22 アリスから郵便で「荒蝦夷」資料着。ありがとさん。

 孫電話、二人とも眠いはずなのに大はしゃぎ。お店屋さんごっこからお医者さんごっこ。

 名取佐和子 『文庫旅館で待つ本は』 筑摩書房 1600円+税



 ノンフィクションだと思って本屋さんで探したら、小説だった。

 海辺の町の老舗旅館・凧屋旅館には古い本を集めた文庫=図書室がある。若女将・円(まどか)が「お客様と同じにおい」の本を薦めてくれる。本は曽祖父が蔵書家から譲られたもの。ところが、円は鼻が利きすぎてアレルギーなのか何なのか、本を開くと「鼻がツーンとして目がチカチカして涙が出て」読むことができない。

〈客の到着時刻は、だいたいわかる。潮風にのって、各々のにおいが運ばれてくるからだ。円は今日も鼻を上に向けて、クンクンと嗅ぐ。子どもの頃、他人様やお客様の前でこれをやると、三千子(引用者註、祖母で女将)に叱られた。(中略)円の体が反応するほどにおう客は、たいがい表に出せない思いを抱えていた。そして凧屋旅館の文庫には、彼らと同じにおいを放つ書物があった。本のにおいに敏感すぎて、ただの一冊も読み通せたことのない円だが、客には同じにおいのする書物をすすめてみることにしている。大抵の客はその書物を読むことで、抱えていた思いの出口を見つけ、喜んでくれるからだ。〉

 お客に寄り添う癒しの旅館、というファンタジーと思って読み進めると、最後に話は大転換する。蔵書家と曽祖父には苦しく悲しい関係があった。本と二つの家族をめぐる因縁。今を生きる者たちはどう決着をつけるのか。鍵はやっぱり、本。

(平野)

2024年1月20日土曜日

シェイクスピアの記憶

1.17 「NR新刊重版情報」590号着。書店員連載は、保坂修一さん(栃木県下野市・うさぎや自治医大店)「本屋であるために」。

 


1.18 年始の運だめし、年賀はがきの抽選は今年もはずれ! もう老い先短いのだから切手の「運」くらい来てもいいと思うのだが。使い果たしてスカスカか。

 

 J.L.ボルヘス 『シェイクスピアの記憶』 岩波文庫 

 訳 内田兆史(あきふみ)、鼓直(つづみ ただし)630円+税



 アルゼンチン出身の作家・詩人ホルヘ・ルイス・ボルヘス(18991986年)の短篇4篇。

 表題作。シェイクスピアの記憶を持つがシェイクスピアになれなかった学者の物語。シェイクスピア研究者ヘルマンは同じく研究者ダニエルから「シェイクスピアの記憶」を譲り受ける。ダニエルは元軍医、近東の野戦病院で死ぬ直前の兵士から「記憶」を渡された。ダニエルは「記憶」によって小説仕立ての伝記を書いたが、批評家からは蔑まれた。ヘルマンは「記憶」を受け取るが、自分で発見しなければならない。少しずつ「記憶」を思い出す。「記憶」によって自分がシェイクスピアであるかのように感じる。前所有者と同じように伝記を書こうとした。

……ほどなくして、そうした文学ジャンルに手をつけるには、私がいささかも有していない作家の資質を必要とすることがわかった。私には物語ることができない。私は、シェイクスピアよりもはるかに奇異な私自身の物語を紡ぐこともできないのだ。(後略)〉

 幸福感から恐怖に変わる。自分自身の記憶が「記憶」に飲み込まれていく。「両親からもらったことばを忘れそうになっていることに気づいて愕然とした」。ヘルマンは他人に「記憶」を譲ることにする。

(平野)

2024年1月16日火曜日

隆明だもの

1.14 「朝日俳壇」より。

〈風花やアンデルセンの世界より (松阪市)石井治〉

1.16 周防大島から〈みずのわ〉一徳社主来神。芦屋~京都~富山行脚の途中。いろいろ打ち合わせして元町居酒屋、一徳は十数年ぶり、ヂヂも六~七年ぶり。

 

 長尾圭・イシサカゴロウ 二人展 「淡白なちから」

1月16日(火)~2月10日(土)

Calo Bookshop &Cafe 

カロ ブックショップ アンド カフェ

長尾圭・イシサカゴロウ二人展「淡白なちから」 – Calo Bookshop and Cafe | Calo Gallery

 



 ハルノ宵子 『隆明(りゅうめい)だもの』 晶文社 

1700円+税



 詩人・文芸評論家吉本隆明の長女による回想記。戦後を代表する思想家。全共闘世代にとっては「教祖」的存在。昔から偉い人の名を音読みするようで、信奉者は「よしもと・りゅうめい」と呼ぶ。

 長女は漫画家、次女は作家、夫人も俳句を詠む人らしい。偉大な父のもとで知的な家庭環境、子どもはのびのび育ったんだろう、と一般庶民は想像する。

 でもね、当事者にとってはかなり異常な家庭だったよう。モノカキはビンボー、家庭内離婚、母は壊れたなど、なんとも言えない状態を告白。

〈ヘンな話、うちの家族は全員がちょっとしたサイキックだ。/母と妹は特に、シンクロニシティーや予知夢など、分かりやすい能力に長けていた。(中略、姉妹は食べ物テレパシー)/父の場合は、ちょっと特殊だった。簡単に言ってしまえば、中間をすっ飛ばして「結論」が視える人だったのだ。(後略)〉

 昔なら高僧とか予言者とか、特別な脳の働きを持つ存在らしい。凡人は吉本の難解な思想をわからなくてあたりまえ。

〈父だってボケていた――と言うと、あれだけの頭脳と知識を持ち、最後まで常に思考を重ねていた吉本さんが、ボケる訳ないだろう! と父の全集の主たる読者である、団塊以上のオジ様たちは主張することだろう。(後略)〉

 無意識に暴れる、眼が悪くなる、歩けず這う……、姉妹は老いの残酷さを思い知る。偉大な父の晩年を包み隠さず語る。

娘たちは父から離れて表現者となった。

〈表現者として生きて行く以上、この世界においては、誰に頼ることもできない。1人荒野を歩いて行く、それは途方もなく孤独な旅路なのだ。〉

(平野)

2024年1月11日木曜日

父がしたこと

1.10 仕事中、頭の中で「雨の慕情」と「舟歌」がくり返し聴こえる。冷たい雨が少し降る。

「図書」1月号(岩波書店)「岩波新書〈新赤版2000点突破記念〉特集号」。南陀楼綾繁「岩波新書〈新赤版〉一〇〇一――二〇〇〇ななめ読み」他。



 夜、孫電話。妹は鼻の頭にスリ傷あり、デタラメの歌歌う。姉はチマチマしたおもちゃを並べている。猛獣妹が壊しにかかる。

 

 青山文平 『父がしたこと』 角川書店 1800円+税



 江戸末期、ある徳川親藩の藩主に持病があり外科手術が必要。執刀するのは華岡青洲の医術を継承する名医。目付の重彰は藩主の側近である父親から内密に知らされる。重彰の子も生まれてまもなく彼の手術を受けていた。藩主手術に失敗は許されない。親子連繋して秘密裡に計画、実行。無事成功するのだが……

 漢方と西洋医学の相克、公儀による蘭学排撃、ヒルコ神話に代表される迷信――障害を持って生まれた子の「間引き」を「子がえし」と正当化など、当時の医学事情を背景にした家族の物語、忠義の話と読んでいた。ところが、終盤に大きく動く。

(平野)

2024年1月9日火曜日

神様のお父さん

1.5 仕事初出勤。昼休みに近所の須磨寺参拝。

 孫たちはお昼前の新幹線で帰途につく。小さいけれど大型台風並みのパワーを発揮して、帰って行った。細腕ママは強くなった。ヂヂババと叔父はやれやれ7割、寂しい3割。

 大狸教授からお年玉が届く。ありがとうございます。昨秋関西学院で開催した「寿岳文章展」の図録など資料。教授が企画し、展示や図録作成、記念講演も担当された。

 


1.6 図書館。年末に孫のが借りた児童書を返却して、自分の調べ物。小磯良平描く「戦災直後の生田の森」見つける。古書店主・カタさんと遭遇。

 午後買い物。BIG ISSUE470、「トーベ・ヤンソン」「沖縄、百年の食卓」など。

本屋さんで家人の雑誌。ちょうどレジにいたヒラ嬢に新年挨拶。

 


1.7 「朝日歌壇」より。

〈がまくんとかえるくんとの友情を読みて小二の教室(へや)あたたかし (三重県)藤井恵子〉追悼、三木卓。

 孫のメッセージが冷蔵庫のドアに貼ってあった。ヂヂ胸キュン! チャンリンチャンリン。

「みなと元町タウンニュース」377号着。Web版も更新。拙稿は、西村貫一蔵書票原稿の続き。

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/townnews/

 

1.8 臨時出勤、午前中のみ。祝日でもゴミ収集日は管理人出勤の契約をしているマンションがある。年末年始に臨時出勤を断わっていたので、今回は受諾。

 午後家人と映画。「PERFECT DAYS」。静かに始まり、主人公は淡々と日常生活を繰り返す。シンプル生活、丁寧な仕事、休憩時間に木漏れ日を撮影、銭湯帰りの居酒屋、寝床読書……。次第にまわりの人びとが事を起こして、彼の現在と過去を揺るがす。彼が今に至るまで何があったのか、見る者がそれぞれ想像すればよい。懐かしい音楽がカセットテープから流れる。

 お客はやはり高齢者が多い。グループ・カップルそれぞれ飲み物・ポップコーンを持って。それはそれでいいのだけれど、私たちは最後に退場したのだが、あっちこっちコーンこぼしまくり。かなりだらしない。

 


 北村薫 『神様のお父さん ユーカリの木の蔭で2』 本の雑誌社 1700円+税



「本の雑誌」連載を中心にした読書エッセイ。「ユーカリの木の蔭で」はフランスの詩人シュペルヴィエルの詩「動作」にちなむ。北村は時空を越えた永遠性・神秘・記憶など、物語や詩に紡がれた言葉を旅する。

今回の表題「神様のお父さん」は〈漫画の神様〉手塚治虫の父・粲(ゆたか)のこと。多忙な治虫に代わってファンの相手をしたり案内をしたり。

作家・梅崎春生の子ども(小4)が友だちと学級新聞取材で近所の手塚家を訪問。歓待され、喜んで帰ってきた。目を輝かせて梅崎に感想を言う。「神様のお父さん」が庭で寝転んでくつろいでいたことも。子の感想は、稼ぎのある息子を持ってラクする境遇になりたい。他の子もそう思ったようだ。梅崎は問う。おれのことをラクさせてあげようと感じなかったか、と。子の答えは、

「なるほどねえ。そんな考え方もあったか」梅崎春生「聴診器」(『怠惰の美徳』)

他に、夏目漱石が「アイ ラヴ ユー」を「月が綺麗ですね」と訳したのは事実か? 森鷗外の実験、大岡昇平と少女漫画、土井晩翠は「つちい」か「どい」か、さらに「つちいばんすい」の語源、本の帯、本好きたちの座談会、落語に歌舞伎に映画も。びっくりあり、お笑いあり、本の世界は広い。

(平野)

2024年1月3日水曜日

絡繰り心中

1.1 暖かい正月。早朝氏神さんにお参り。近所の集合住宅前に消防車とパトカー。サイレンは聞こえなかったから大事ではなさそう。

 年末、島根のハジメ牧師からの通信に、神戸の詩人・出版社主・レストラン経営者オオ氏の訃報。脳梗塞による突然死だそう。まだ60代半ば。ご冥福を祈る。

 ほろ酔い気分も吹っ飛ぶ北陸の大地震。自然相手に文句言っても詮無いが、まさに「泰平の眠りをさます」大災害。被災地の皆々様、お見舞い申し上げます。

1.2 孫姉は絵本『ねこふんじゃった』(リブロポート、1987年)を見ながらママとピアノ演奏。妹は「ねこしんじゃった!」と、はしゃいで踊る。絵本の絵は『わたしのワンピース』(こぐま社、1969年)の西巻茅子。

 今日は羽田で飛行機事故。

 


 永井紗耶子 『絡繰り心中 新装版 小学館文庫 710円+税



 2023年『木挽町のあだ討ち』(新潮社)で直木三十五賞・山本周五郎賞を受賞した著者のデビュー作。2010年刊行『恋の手本となりにけり』を改題・改稿した『部屋住み遠山金四郎 絡繰り心中』をさらに改稿。

 旗本遠山家の息子・金四郎は家を出て木挽町の芝居小屋で笛吹き。父の友で御家人ながら狂歌師・書家として名高い大田南畝が面倒見役。金四郎が吉原近くの田んぼで花魁の死体を発見。正義漢・金四郎が相棒役・歌川国貞と調べ、真相に迫る。

花魁の生い立ちと心中願望、相手の男は? 死体の太刀筋は? 事件関係者それぞれが封建制度の仕組み=絡繰りにもがき苦しむ。武家は武家の、商人は商人の重荷を背負っている。金四郎も同じ。南畝が諭す。見聞を広めるために町方にいるなら楽しめ、お前さんは逃げているように見える、旗本に戻るまで覚悟して楽しめ、と。

〈俺はね、武士が渋い顔して武士をやっているのが嫌いなんだよ。いつでも死ぬ覚悟がございって顔は見たくもねえ。あれは粋じゃねえ。生きるってことはな、覚悟がいるんだ。死ぬのも結構だが、しっかり生きてから言うんだな。死ぬだけならな、武士じゃなくてもできるのさ。〉

(平野)

2024年1月1日月曜日

謹賀新年

 謹賀新年

二〇二四年 令和六年 甲辰

 芸人さんが「生きてるだけで丸儲け」と茶化したり、高齢者に向かって「生き~よ~」と声を掛けたり。彼らの言葉を深く考えていませんでした。ヂヂババともに頭は霞む。身体は痛む、震える、痺れる、痒い、漏れる。歩けば蹴躓く。それでも今のところ何とか生きています。

皆様、健康で「生き~よ~!」。

本年もよろしくお付き合いください。

 


「龍涎嶼」『川上澄生全集』第十二巻 中公文庫より。

 


「黄道十二宮」『川上澄生全集』第十三巻 中公文庫より。

 

 例年どおり神社の絵馬。

 


湊川神社


 

生田神社

(平野)