2024年1月20日土曜日

シェイクスピアの記憶

1.17 「NR新刊重版情報」590号着。書店員連載は、保坂修一さん(栃木県下野市・うさぎや自治医大店)「本屋であるために」。

 


1.18 年始の運だめし、年賀はがきの抽選は今年もはずれ! もう老い先短いのだから切手の「運」くらい来てもいいと思うのだが。使い果たしてスカスカか。

 

 J.L.ボルヘス 『シェイクスピアの記憶』 岩波文庫 

 訳 内田兆史(あきふみ)、鼓直(つづみ ただし)630円+税



 アルゼンチン出身の作家・詩人ホルヘ・ルイス・ボルヘス(18991986年)の短篇4篇。

 表題作。シェイクスピアの記憶を持つがシェイクスピアになれなかった学者の物語。シェイクスピア研究者ヘルマンは同じく研究者ダニエルから「シェイクスピアの記憶」を譲り受ける。ダニエルは元軍医、近東の野戦病院で死ぬ直前の兵士から「記憶」を渡された。ダニエルは「記憶」によって小説仕立ての伝記を書いたが、批評家からは蔑まれた。ヘルマンは「記憶」を受け取るが、自分で発見しなければならない。少しずつ「記憶」を思い出す。「記憶」によって自分がシェイクスピアであるかのように感じる。前所有者と同じように伝記を書こうとした。

……ほどなくして、そうした文学ジャンルに手をつけるには、私がいささかも有していない作家の資質を必要とすることがわかった。私には物語ることができない。私は、シェイクスピアよりもはるかに奇異な私自身の物語を紡ぐこともできないのだ。(後略)〉

 幸福感から恐怖に変わる。自分自身の記憶が「記憶」に飲み込まれていく。「両親からもらったことばを忘れそうになっていることに気づいて愕然とした」。ヘルマンは他人に「記憶」を譲ることにする。

(平野)