2025年6月29日日曜日

荷風の昭和 前篇

6.22 テレビニュース番組のスポーツコーナー中、速報。アメリカ合衆国大統領がイラン核施設攻撃公表。自国の軍隊を讃美し、「今こそ平和のときだ!」とは。狂気!

「朝日歌壇・俳壇」より。

〈広辞苑次期改訂で載るだろうミスターの項に長嶋茂雄と (つくば市)小林浦波〉

〈ほんじつも館内まはり一万歩達成したり司書とふ仕事 (長門市)松岡加恵〉

〈父の日や仕舞ひしままの資本論 (大和市)岩下正文〉

垂水と板宿の懇意の本屋さんに営業。万が一客注あがればよろしく、と。

6.24 孫電話。妹、最近はウインクが得意。右を瞑るのだが、口ひん曲げて歯をむき出す。お笑い系。姉は読書集中、ときどき顔出し。こちらは乳歯生え変わりで、あっちこっち歯なし。

6.26 これまでのところ古本屋さんが積極的に注文くださり、イベントも考えてくださっていた。新刊本屋さんからも注文いただき、感謝です。協力なんでもします。裸踊りはできませんが、一曲歌うくらいなら、やります。

6.28 古本屋さんが宣伝DM作ってくださる。出来上がりが楽しみ。

 

 川本三郎 『荷風の昭和《前篇》 関東大震災から日米開戦まで』 新潮選書 2600円+税



 作家・永井荷風(18791959年)は肉親と離れ、家庭は持たず、職に就かず、文壇から距離を置き、世捨て人のように生きた。気の合う友と語らい、日陰の女性たちを愛した。日記「断腸亭日乗」に日常を丹念に記録した。関東大震災からの復興、テロ・軍部の横暴、カフェや遊郭の女性たちとの交際。書物を愛し、世の中の動きに目を配り、街を歩き東京の移り変わり、市井の人たちの暮らしを書き記した。自由な生活と創作に戦争が忍び寄ってくる。

 昭和16116日の記述。

「風なく晴れてあたゝかなり。炭もガスも乏しければ湯婆子(ゆたんぽ)を抱き寝床の中に一日をおくりぬ。(中略、物資窮乏、以前は外食だったが自炊)始はもの好きにてなせし事なれど去年の秋ごろより軍人政府の専横一層甚しく世の中遂に一変せし今日になりて見れば、むさくるしく又不便なる自炊の生活その折々の感慨に適応し今はなかなか改めがたきまで嬉しき心地のせらるゝ事多くなり行けり」

 それなりに楽しんではいる。

(平野)

2025年6月21日土曜日

神戸元町ジャーナル その2

拙著、印刷開始。

表紙の写真。安井仲治「相尅」 1932/2004(名古屋市立美術館蔵)

 


『神戸元町ジャーナル 通り過ぎた人々、喪われた街
Motomachi  Journal, KOBE
- Those who Passed by, the City That was Lost -
 』
2025年(明治158/ 大正114/ 昭和100/ 戦後80年)
7
25 初版第一刷発行
本文執筆:平野義昌
写真構成・年譜執筆・索引編輯・校閲:柳原一德
挿画:林 哲夫
表題英訳:菊地利奈
書容設計:扉野良人
出版助成:公益財団法人 神戸文化支援基金
発行者:柳原一德
発行所:みずのわ出版
 〒742-2806
 山口県大島郡周防大島町西安下庄 庄北2845
 TEL/FAX
0820-77-1739
 mailmizunowa@osk2.3web.ne.jp
 URLhttps://mizunowa.com/
印刷:株式会社 山田写真製版所
組版・DTP:井村絵里子・薮中美智代
制作管理:石坂隆行
プリンティングディレクション:黒田典孝
製本:株式会社 渋谷文泉閣
平野義昌・柳原一德, 2025
ISBN978-4-86426-054-1 C0095
JASRAC
2502302-501
日本製

 

イベントも決定。まず、ギャラリー島田にて。

『神戸元町ジャーナル』とその周辺

75日(土)~15日(火) *9日(水)休廊


 

(平野)

2025年6月19日木曜日

往来絵巻 貸本屋おせん

6.18 梅雨は明けたのか? 連日猛暑、熱中症にご注意を。

 拙著につき三宮の本屋さんに営業。一軒はだいぶ前からお知らせしていたけれど、もう一軒は初めて。次回仕入れ数を決めてもらうことにする。

6.19 拙著、印刷開始。みずのわ社主は印刷に立ち会うため富山入り。各工程の実況写真続々着。胸ドキドキ。

 午後、ギャラリー島田DM作業。本完成に合わせてご縁のある画家さんたちが出展してくださる。ありがとうございます。



 帰り道、本屋さん、古本屋さんにDMお持ちする。

 「BIG ISSUE」505号、家人が六甲道駅で買ってきてくれる。

 

 高瀬乃一 『往来絵巻 貸本屋おせん』 文藝春秋 1700円+税



 江戸幕府寛政の改革の主眼は経済・財政政策の立て直し。改革は思想・情報の統制にも及ぶ。朱子学振興の一方で洋学を禁じ、政治批判を許さず、風俗粛正に目を光らせた。出版はそのターゲットになる。おせんの父は名高い彫師だったが、禁制の本に関わったとして処罰された。板木は削られ、指を折られ、失意のうちに自殺した。

〈このご時世、浮説之儀(ふせつのぎ)やら猥成儀(みだりなるぎ)、異説と類する読物は開板(かいはん)するのが難しい。/かつて筆禍により絶板の憂き目に遭った書物の類は、せんのような貸本屋が一字一句違(たが)うことなく書き写して写本を拵えてきた。連座して処罰を受ける貸本屋も多かったが、御公儀の締めつけが厳しくなるほど、貸本屋は増え続けている。〉

 岡っ引きにマークされているが、書物を「守っていくのが貸本屋の使命でもあるとせんは思っている」。

 おせんは江戸の町を歩きながら、出版・本に関わる事件に首を突っ込む。奉行の失態を批判した狂歌の犯人探し、神田明神祭の絵巻とその裏で起きた殺人、心中の濡れ衣、禁書をめぐる騒動、よその本屋の板木で利益を貪る似而非本屋。おせんの正義と出版を守る姿が凛々しい。

ある話でおせんは探している御法度本の関係者(女房持ちの植木職人)に近づき、気のある素振りをチラチラ……色仕掛け? おせんはそんな人じゃない! おせんに何か策略があるか、著者のいたずらと思ったが、結局著者にヂヂイが騙された。

(平野)

2025年6月17日火曜日

「あて字」の日本語史

6.10 臨時出勤。雨の日の掃除は苦あり楽あり。

6.12 家人が読みたい雑誌、探すも売り切れ。付録が人気らしく、個人通販サイトで定価より高く販売しているそう。これもテンバイヤー? 目端が利くのでしょうけど、人様のアイデア・商いで稼ぐなんて、セコッ!

 午後、会社の仲間が集まる研修会。9割以上が爺さん。仕事の工夫や顧客評価などで表彰される人が、「業界一の低賃金で~」と発言してドッと湧く。

6.15 拙著原稿最終校正すみ。ようやくですが、すべてヂヂイの責任。編輯者には多大な負担をかけた。イベントをしてくださる関係者の皆さんも着々と準備進行、感謝です。

「朝日歌壇」より。

〈人生の重石のごとし広辞苑第一版が書棚にありて (魚沼市)磯部剛〉

 映画「国宝」鑑賞。原作小説は吉田修一、201618年朝日新聞連載。俳優さんたちもスタッフの皆さんも素晴らしい。エンディングで思わず拍手しそうになった。ただ、3時間だとヂヂイはトイレ危ない、終了後走る。

 

 田島優『「あて字」の日本語史』 法蔵館文庫 1300円+税



2017年風媒社初版。著者は1957年愛知県一宮市生まれ、国語学専攻。愛知県立大学教授、宮城学院女子大学教授を経て明治大学法学部教授。

あて字とは、〈漢字のもつ本来の意味にかかわらず、音や訓を借りてあてはめる表記。また、その漢字。〉(『広辞苑』)

私たちは「不便」を「ふべん」と読む。便利でない、自由がきかない、の意味で使う。明治初期には「ふびん」と読み、かわいそうの意味。現代では「不憫」「不愍」と書く。でもね、両方とも「あて字」。「憫」「愍」とも常用漢字ではないし、かわいそうの意味だから、「不」をつけると、かわいそうの否定になってしまう。「ふびん」と仮名で表記すべき。

明治時代の作品を読むと漢字にルビが振ってあり、読み方に驚くこともある。現代人には不思議だが、それらの読みは当時一般的に使用されて、読む方も慣れていたもの。「あて字」として定着していた。

本書は、〈日本語の歴史において、それぞれの時代の書記スタイルがあて字を必要とした状況や、またそれぞれの時代にどのようにしてあて字が生み出されてきたかという点に重点を置いて述べる。〉

 古代の無文字社会、中国から漢字がもたらされ、我が先祖たちはこれを自由に便利に使った。万葉仮名(上代仮名)から平仮名・片仮名を生み出し、それらを混交してさまざまな書記スタイルで文章を綴った。中世になって「あて字」という用語が確立して、和語も漢字で書き表わすようになる。近世、印刷によって漢字に振り仮名をつけることができ、さらにあて字が増える。漢語の口語化、俗語増加、異国との交流による外来語表記。現代では国の施策によって、漢字制限や、あて字の禁止もある。

私たちは明治の本を読むのに苦労する。言葉は変化、発展する。新語が生まれては消え、表現が多様化していく。漢字の音訓や外国語を自由に当てはめた子どものキラキラネームはどう読んでいいのかわからない。今年5月から戸籍に読み仮名の記載が義務付けられた。

 (平野)

2025年6月10日火曜日

大佛次郎 敗戦日記

6.1 みずのわ出版社主、ギャラリー島田スタッフさんと出版記念展覧会打ち合わせ。ボケボケヂヂイをお神輿の乗せてくださる。それにしても未だに原稿ミスが見つかる状態。大丈夫か?

 米騒動は人気政治家の素早い行動で一段落しそうだけれど、今後どうなるのか。古古米や古古古米が安い、美味い・不味い、よりも、買いたい時に安定した価格でお米を手に入れられるかどうか。食糧自給こそ安全安心。

 古本市で大佛は鎌倉在住。った本、大佛次郎 敗戦日記』(草思社、1995年)。昭和199月から翌年10月まで。敗戦間近、ここにも米軍機が頻繁に襲来。食事、酒類、物価、戦局、文壇仲間・記者との交友など、日常生活を詳しく記録した。新聞雑誌の連載仕事に忙しく、ロシア文学やフランス語の原書を繙き、たびたび上京や講演旅行など。近所の人たちがこまごまと生活の支援をしてくれ、食料もお酒もそれほど不自由しない。鎌倉文士たちが蔵書を持ち寄り「鎌倉文庫」で本を貸し出し、人気。文人たちはよく飲む。壮年も兵隊にとられ、高齢者は「義勇隊」として勤労奉仕。大佛は空襲を恐れ、大事な書物を疎開させたり、防空壕に埋めたり。

〈八月十五日 晴。朝、正午に陛下自ら放送せられると予告。(中略)予告せられたる十二時のニュウス、君ヶ代の吹奏あり主上親(みずか)らの大詔放送、次いでポツダムの提議、カイロ会談の諸条件を公表す。台湾も満洲も朝鮮も奪われ、暫くなりとも敵軍の本土の支配を許すなり。覚悟しおりしことなるもそこまでの感切なるものあり。世間は全くの不意打のことなりしが如し。人に依りては全く反対のよき放送を期待しありしと夕方豆腐屋篠崎来たりて語る。(後略)〉

 敗戦後の政治、軍部はごたごた、ぐじゃぐじゃ。817日東久邇内閣成立、93日大佛は内閣参与に就任するが、105日に内閣総辞職でお役御免。大佛は相変わらず新聞雑誌に執筆。鎌倉文庫で出版の話も。市民たちは冷静。食うこと、生きることに必死。



6.3 長嶋茂雄さん逝去。ミスタープロ野球89歳旅立つ。

 8月から購読新聞が土曜日の夕刊発行をやめるそう。これも人口減少社会の影響か。

 古書組合事務所帰りの古本屋店主お二人に遭遇。拙著刊行に合わせてイベントを予定、というよりすでに決定。会場も予約ずみ、打つ手が早いけれど、私の都合はどうなのか。

 本屋さんで乱歩特集の雑誌といしいひさいち。



6.5 花森書林に寄る。こちらでも記念イベントを考えてくださる。トークイベントよりも展示の提案。

6.8 「朝日歌壇」「朝日俳壇」より。

〈四度目の断捨離する手でそっとなで高橋和巳棚に戻しぬ (東京都)手塚洋子〉

〈天金の書が届きけり夏安居(あんご) (東京都世田谷区)松木長勝〉

 先月孫に会いに行った帰りに眼鏡紛失。一代前のは壊れて、その前の古いのを使っている。やっと新しく買う。

(平野)

2025年5月31日土曜日

鷺と雪

5.25~ 何ということもないのにせわしなく、日記をつけられない。臨時出勤あり、有給休暇あり。

拙著完成に向けてみずのわ社主が最終確認に奮闘してくれている。著者が頼りないから、厳しいチェックが入るのはありがたいこと。探せばまだ資料が見つかる。

 ギャラリー島田スタッフさんたちが出版に合わせて展覧会を企画してくださっている。他にもイベントや本紹介を考えてくださる方々がいらして、感謝の一言。今しばらくお待ちください。印刷決定、となるまで浮かれることはできません。

 読書も落ち着かない。以前古本市で見つけた本をあれこれ手にする。

北村薫『鷺と雪』(文藝春秋 2009年)は第141回直木賞受賞作だが、これがシリーズ物の最終巻とは知らなかった。図書館で前作を借りる。『街の灯』2006年 文春文庫)、『玻璃の天』2009年 文春文庫)。昭和初期、上流階級の女学生・花村英子がお付きの運転手(相談役、護衛役)別宮みつ子=愛称ベッキーと謎解き。兄が悩む暗号の解読、犬猿家族の仲直りに水を差すもめ事、友の失踪、豪邸での殺人事件・変死事件、行方不明の華族、ドッペルゲンガー現象などなど。モダニズムあふれる帝都、華やかな社交界を舞台に、きな臭くなる世情を映し出す。第一話「虚栄の市」では昭和七年(1932)五・一五事件、最終話「鷺と雪」では昭和十一年(1936)二・二六事件が描かれる。著者得意の文学、古典芸能、映画、音楽の話題も。

ヒロインは英子で謎解きの主役。ベッキーは英子にヒントを与え、補佐・護衛に徹しているのだが、本シリーズは〈ベッキーさん〉シリーズと呼ばれる。ベッキーの素顔が少しずつ明らかになる。時代の被害者であり、次代の若者を導く先達である。



5.28 花森書林・森本恵さんのご命日。

(平野)

2025年5月25日日曜日

岡本綺堂集

5.18 「朝日俳壇」「朝日歌壇」より。

〈吉里吉里忌(きりきりき)ひようたん島にドン・ガバチョ (市川市)福田肇〉

〈深い息で北条民雄を読み終えるトランプトランプと騒がしい世に (浦安市)中井周防〉          

 本や本屋さん関連を選んで紹介しているけれど、こんなのも。

〈「日本人って戦争好きだ。敗けるまでは」年表閉じて孫が呟く (船橋市)清水渡〉

5.20 歯医者さん、ギャラリー島田DM作業。スタッフさんたちと出版記念展覧会の話。海文堂と縁深い画家さんたちに協力依頼することに。

5.22 本屋さん、荷風、時代小説など。荷風本は前篇・後篇なのに、レジに後篇を2冊持って行っていた。ヂヂイは常に迷惑をかける。

5.23 拙著で登場する方のお名前、漢字の「読み」で悩む。確か濁らずお呼びしていたと思うのだけれど、実際はどうなのか自信なし。たとえば「中田」は「なかた」なのか「なかだ」なのか? 「浜崎」は「はまさき」か「はまざき」か? どっちでもいいという問題ではない。「東」は「あずま」なのか「ひがし」なのか? 「東海林」という難しい苗字には「しょうじ」「とうかいりん」という読み方(他にもあるらしい)がある。

5.24 週末は雨、という周期。午前午後とも図書館。

 

■ 『怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集 青蛙堂鬼談』

日下三蔵編 ちくま文庫 20012月(手持ちは同年3月二刷)



 酔狂者が集まり怪談話や体験談を語り合う岡本綺堂版「百物語」。綺堂の怪異譚は古今東西の話を取り入れている。海外の探偵小説も愛読した。不思議な幽霊話もあるが、できるだけ科学的合理的に謎解きをする。精神的な弱みであったり集団心理であったり。祟り、愛憎、因縁などの名を借りて悪事を働いたり、仕返ししたり、そういう人の心が一番恐ろしい。

 日下は編集者、ミステリ・SF研究家、古本蒐集者。アンソロジー編集多数。5.24「朝日新聞」広告に、著書『断捨離血風録』、小山力也『古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸』(共に本の雑誌社刊)。

(平野)