2026年8月6日木曜日

ハイカラ右京探偵暦

8.1 朝、図書館でラフカディオ・ハーンのこと。帰宅後、本屋さんで昭和の俳人「西東三鬼」を主人公にした小説購入。戦中戦後三鬼は神戸で過ごすのだが、それ以前のことを題材にしている。

8.2 「朝日歌壇」より。

〈夫を継ぎ長く老女の営みし書肆(しょし)に閉店告げる貼り紙 (観音寺市)篠原俊則〉

8.4 家人多忙、ひとりで京都。〈歌川国芳展〉京セラ美術館と大谷本廟墓参。美術館開場まで時間あり、しばらくぶりに平安神宮参拝。美術館も現在の姿になって初めて、地下が入口になっている。家人指令の買い物をして帰宅。



 孫(姉)のピアノ発表会動画届く。上手上手、リズミカルな曲を軽快に弾いて、ヂヂイ汗引く。ヂヂバカちゃんりん。

 

日影丈吉 『ハイカラ右京探偵暦』 現代教養文庫 社会思想社 1978



 日影丈吉(本名片岡十一、東京市深川区(現江東区)出身、19081991年)、作家、翻訳家。アテネ・フランセ在学中に坂口安吾らと同人誌創刊。卒業後、フランス語教師、料理研究。1949年雑誌「宝石」の懸賞小説で入選した「かむなぎうた」でデビュー。

 主人公はハイカラ紳士・右京慎策。

〈明治の中葉にその名をとどろかした怪人物。欧米諸国の秘密警察でも恐れられていた国際スパイで、故国にいる時は総理大臣の内命や警視総監の懇請、あるいは民間の紳商や庶民の依頼、時にはだれに頼まれないでも、変った事件なら自分から買って出て、これを人間社会の探究と自ら称し、奇想天外の推理力を振う私立探偵。〉

 ライバルで相棒にもなるのが警視庁随一の腕利き・吾来警部。西南戦争で顔に火傷を負い独眼、強面ながら温厚篤実。吾来が銀座を歩くと必ず事件にぶつかり、また必ず右京が絡んでくる。

 文明開化が進むなか、まだ江戸の情緒や慣習が残る。痴情のもつれ、近親のもめごと、復讐、政治家暗躍、幽霊(?)登場など猟奇的殺人が起こる。科学捜査や法医学は緒についたばかり、外国人の治外法権という制限もある。右京は天才的な頭脳と広い人脈を駆使して難事件を解決する。人情厚く、目こぼしもする。かと言って聖人君子ではない。悪人のうわまえをはねることもある。最後に吾来の恋の面倒も見る。

『仮面紳士 ハイカラ右京探偵全集』(光文社文庫)の新聞広告を見たのち、古本屋さんで本書発見。

(平野)

2026年7月30日木曜日

影の縫製機

7.25 空犬太郎さんがnoteに海文堂書店の思い出を2回にわたって書いてくれている。

https://note.com/sorainu1968

7.26 「朝日俳壇・歌壇」より。

〈エンジンもハンドルもなく紙魚(しみ)は行く (富士市)村松敦視〉

〈「本も高くなりましたね」と思えども共感しあう本好きおらず (福岡市)犬山裕之〉

 大相撲名古屋場所千秋楽、優勝決定戦巴戦。勝ち抜いた安青錦関、敗れた霧島関と熱海富士関に拍手。

7.27 「朝日新聞」、鷲田清一〈折々のことば〉より。

〈大変な現状に堪えたり抗ったりするためには、やっぱり力が必要なんです。 佐藤純子〉稲泉連『増補 復興の書店』(岩波現代文庫、2026年)より。東日本大震災後、書店人はじめ本に関わる人たちの復旧・復興の過程を追った。20113月以降「週刊ポスト」で断続的に連載。2012年小学館から単行本出版。

https://www.asahi.com/articles/DA3S16513318.html?iref=pc_rensai_long_76_article

当時佐藤さんは仙台市の書店勤務。現在はイラストレーターとして活動。

 夕方ニュースでミステリー作家・東野圭吾さん逝去を知る。ご冥福を。

7.28  朝、墓参り。炎天下お参りの人少ない。それはそうやなあ~。草ボウボウで大汗。

 夕方、京のミホさんから暑中見舞いはがき着。猛暑とアルコールで脳天ファイラー進行中の様子。ヂヂイも負けずにボケボケ返事。

 またも熊本で大地震。被災された方々にお見舞い申し上げます。


『影の縫製機』 ミヒャエル・エンデ 文 ビネッテ・シュレーダー 絵 酒寄進一訳 サウザンブックス社 3800円+税




『モモ』『はてしない物語』で知られるドイツの作家・エンデの詩19篇と絵本作家シュレーダーの幻想的な絵のコラボ。1982年ドイツ語版原書出版。2006年日本語翻訳版が長崎出版より出版されたが、同社倒産のため長く読者に届かなかった。このたびドイツ語原文を付けて復刊。

「影の縫製機」

〈 縫製機/たたずむ/夜の砂丘/日の出まで/ブラバントの服きた/おんなが七人/ぬいもの はげむ/むかうは縫製機/しっかりとぬいつける/黒いリボン (後略) 〉

 不安な現在と未来を風刺する。

「夢の漁師」

〈 ほらごらん 闇の大船/ねむりの潮路にくりだした/人知れぬ さんごしょう/漁師は投網する/(中略 夢の穴場を知る盲目・年寄・変人の網元の合図で漁師たちが大小さまざまな夢を引き上げる)/一番すてきな夢 それこそきみにふさわしい!/愛するきみに たずさえてきた/ほら どうぞ! 今は見えないけれど/今晩ねるまで まっておくれ! 〉

(平野)

2026年7月25日土曜日

それからはスープのことばかり~

7.22 猛暑を通り越して酷暑。まだ倒れないとは思うが、ヂヂイなりに注意して労働に励む。

7.23 花森書林店主に製本家さんに言づけ依頼。店主、8月は出張販売で大忙しで、店舗は84日から26日までお休み。

7.24 大急ぎで午後の職場を掃除して、管理人グループの会議出席。開始時間ギリギリ到着。暑さのため体調不良で欠席者あり。仲間と年数回顔を合わせるのは面白いが、会議そのものは疑問。

 

吉田篤弘 『それからはスープのことばかり考えて暮らした』 中央公論新社 2300円+税



〈月舟町〉シリーズ二作目。2004年から2005年『暮しの手帖』連載。2006年同社から単行本出版。2009年中公文庫。本書では著者と中央公論新社編集者の内緒話を追加。その編集さんは雑誌連載開始直後に将来の中公文庫での出版を願ったそう。

月舟町の一つ隣の駅に越してきた青年オーリィ、いまは無職。路面電車と隣駅にある古い映画館が目当てでここを選んだ。「隣」というのがいいらしい。いい大家さん=マダムのアパートがみつかり、サンドイッチ店トロワ(父・安藤さん、子リツ君)の常連になる。映画館=月舟シネマは古い映画をかける。オーリィは50年ほど前の脇役女優(あおいさん)のファンで、彼女の出演作品を見続けている。長くて十数分、短いと秒単位の出演なのに。オーリィは映画の脚本家になりたかった。月舟シネマで一緒になる初老女性持参のスープが気になる。離れた席なのに匂いが漂ってくる。小さい頃の野球遊びから帰ってきた食卓が思い浮ぶ。映画もポップコーンの味も頭に届かず、お腹が鳴る。彼女に聞こえてしまったのか、「ちゃんと御飯を食べないと」と声をかけられた。

〈僕は食べ残したポップコーンを手にしたまま、依然として空腹を感じながら、それからしばらくスープのことばかり考えていた。〉

オーリィはトロワで働く。駅前の喫茶店の新メニューにお客が流れ、オーリィがスープメニューを開発することになる。オーリィは映画館の女性とラーメン屋でもたびたび会い、リツ君の同級生の祖母とわかる。彼女をあおいさんだと思い込み、「あおいさんだということにする」。

あおいさんからスープのレシピを教わる。「ただのスープ。何度も味見して、精一杯おいしくなるようつくったけど」。オーリィは試作を繰り返し、みんなに味見をしてもらう。

〈何よりこれは、あおいさんのスープで、だからこそ口にした誰もが驚き、そればかりでなく、それぞれの記憶に何かが届いて、何かが立ち上がり、記憶の中にいる人たちまでもが「おいしい」と笑みを浮かべている――そんな錯覚があった。(中略、あおいさんにも味見をしてもらう。)/「わたしの味と違うのね」/どきりとするようなことを、まるで映画のセリフのようにさらりと口にした。/「駄目でしたか」/「そうじゃないの。あのね、これはもう、あなたのスープなのよ。あなたの――というより、あなたたちのスープね」〉

登場人物たちは亡くした人のことを思い続けている。オーリィのスープのよってそれぞれの記憶が呼び覚まされる。

(平野)

2026年7月21日火曜日

戦中派と缶チューハイ

7.1820 息子が用事で東京に行く。ついでにヂヂババも孫に会いに行くことに彼とはほとんど別行動。

 18日、ヂヂババ神田明神参詣の後、全員集合してランチ。孫と本屋さん。

 19日、ヂヂイは神保町、ババちゃんは買い物。午後娘宅でおやつ。孫姉妹がヂヂイにピアノで「ハッピーバースデイ」演奏。ヂヂイ感涙、ふたりをギュッ。晩ご飯食べて、バイバイ。

 20日ヂヂイ73歳誕生日。谷中墓地お参りして、ババちゃん買い物に同行、午後の電車で帰宅。

 神保町にて。今春新装オープンした三省堂書店神保町本店訪問。地上13階の威風堂々大ビルディング。上層階はオフィス。1階から3階まで書店。4階が「THEジャンプショップ」、集英社コミック関連グッズ売り場。棚のレイアウトに工夫をこらし、「知の渓谷」やZINEコーナー、神保町関連の雑貨コーナーもある。でもね、以前のお店に比べると書籍の在庫激減、弱小出版社の本も少ない。東京堂書店、書泉グランデとはっきり特色が分かれる。

 ヂヂイは東京堂が落ち着く。詩人の書簡集と本屋本購入。文房堂(ぶんぽうどう)で孫にみやげ「星の王子様シール」。古書「澤口書店」で古い文庫2冊買ったら、籤で割引のうえ、スタッフさんが家庭菜園で収穫したジャガイモまでいただく。孫にみやげ増えた。孫姉は前日買った本を読み終わる。集中力スゴイ。本棚にコミック『本なら売るほど』(KADOKAWA)の第3巻だけ見つけた。パパの本。3巻の回想シーンで、不動産営業マンが仕事でご縁のできた大家さんから店舗を借り古本屋「十月堂」開業、とわかった。その後住まいも借りることに。

 銀座教文館ナルニア国で孫の雑貨。

 帰宅したら、フェイスブックに誕生日祝いメッセージ数通。まったく投稿していないのに、気にかけれくださる人たちがいらっしゃる。御礼。



 旅のお供は、

タケダ2000GT 『戦中派と缶チューハイ ――アサイラム公園の夏――』 虹霓社(こうげいしゃ) 2000円+税



 福岡在住のミュージシャンが自作の同名楽曲をもとに小説化。世間から落ちこぼれてしまった中年男・梅田のひと夏の出来事。妻から小遣いもらって買った缶チューハイ持って、日中アサイラム公園(避難所、聖域という意味があるそう、著者が勝手に名付けたのだろう)で過ごす。一般市民は見かけない。ホームレスの自称公園管理者・ケン坊は空き缶回収で生計、元自衛隊員。酸素ボンベ引きずって来るサトちゃん、窃盗常習タシロ、それに長身・美形のユウコさん、夜のお商売のマアコさん他姐さんたち……、公園で出会う様々な境遇の人たち、みんな世の中からはみ出した人たちだ。小市民から見れば面倒な人たちだが、梅田はその人柄の良さでなかよしになる。

 初めて会ったサトちゃんと彼女なじみの店で乾杯。サトちゃんは幼少時に長崎で被爆して家族全滅、ひとり博多に出て来て……、その体験が語られる。店主とサトちゃんには古い因縁があるが、知り合ったばかりの梅田は踏み込めない。店主からもサトちゃんには関わるな、と釘を刺される。戦争と戦後の大混乱を生き延びた人たちの事情がある。認知症、病死で知り合いは減っていく。

梅田に仕事の世話をしてくれる人がポツポツ。底辺にいても、苦労人だからこそ、人を見る目はある。マアコさんに、嫁さん大切にしろ、働け、と諭される。

〈……アタシたちを見て気づいて欲しかったばい。人間は死ぬまで何とかして生きらな。楽しいばかりじゃダメばい。〉

 本書は信頼する読書人たちの推薦。購入者はタケダ2000GTの同曲最新バージョンが聴ける。ネットでも視聴可能。

(平野)

2026年7月16日木曜日

奇怪動物百科

7.14 じっとしていても汗が流れる。まだ溶けはしないだろうけれど、油断していると干からびるかも。

7.15 勤務マンション、居住者からまたも専有部に蜂の巣ありの知らせ。会社担当者の了解を得て処理。ベランダのエアコン室外機の裏側に私の拳ほどの大きさ。今シーズンマンションでの駆除は4つ目、我が家でも2つ取った。これも猛暑ゆえ?

BIG ISSUE531、特集〈睡眠を味方に〉。不眠で悩む人が多いそう。ヂヂイは早寝早起き、よく眠れる。


 

ジョン・アシュトン 『奇怪動物百科 新版』 高橋宣勝訳 山本貴光解説 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 1500円+税



1992年博品社より単行本、2005年ハヤカワ文庫。今回新たに解説を付して刊行。

 著者ジョン・アシュトン(18341911)はイギリスの文献収集家、編纂者。民俗、社会史をテーマに30冊以上編集している。

 書名に「奇怪」とあるように、過去の人々が見たらしい、聞いたらしい、いたらしい、想像した、不思議な動物たちとその生態を万巻の書から紹介する。ドラゴン、ユニコーン、ケンタウロス、巨人、人魚……、19世紀のアシュトンから見て非科学的だったはずの想像上の動物たちだが、それでもあえて執筆。現代人も、そんなアホな、とバカにしてはいけない。

古代の賢人や中世の旅行家たちが得た情報をその時代の人々にどのように伝えたか、人々はどのように想像をふくらませたか。外見、習性、どこにいるのか、御利益あるのか、食べられるのか、毒か薬か……、あくまで伝聞情報として伝える人もいれば、実物を観察したかのごとく書く人もいる。未知の世界は恐ろしいけれど、興味はある。不思議は謎、想像はさらに奇想となり、幻想物語に登場するし、詩にもする。

 表紙のまん中の絵は「植物ヒツジ」。1696年にドイツの博物学者が描いた韃靼(タタール)の植物子羊。羊は茎の可動範囲の草を食べる。食べ尽くしたり、茎が折れると死ぬ。ほかにも紹介者がいて、実在と信じられていた。フランス16世紀の詩人がエデンの園でアダムが「植物ヒツジ」を発見する様子をうたっている。

子羊が莢の中にいる種類もあり、こちらは14世紀のイギリス人貴族がインドへ行く途中の国でのことと記述している。

(平野)

2026年7月12日日曜日

遠くの街に犬の吠える

7.7 あっちの権力者スポーツのルールにまで口出して捻じ曲げる。開いた口、ポッカ――ン! こっちの権力者は国民生活に関係ないことばっかりやりたがる。

7.8 絵本作家・林明子さん訃報。四十数年前、コーべブックス高槻店の児童書・ニシさんに林さんの絵本を薦めてもらった。今は子から孫が愛読。感謝と共にご冥福をお祈りします。

 事実はホラー小説より怖い。他人の唇を糸と針で縫う……、もちろん麻酔なしでっしゃろ?……、書くだけで貧血起こしそう。

 近畿梅雨明け。猛暑に対処。

7.11 孫に相撲番付など宅配便。

 

吉田篤弘 『遠くの街に犬の吠える』 ちくま文庫 2020



 単行本は2017年筑摩書房より。

 作家・吉田は編集者・茜に小説朗読を提案され、音響技術者・冴島に引き合わされる。冴島は12歳の時、野球で左目にボールが当たり、左の瞳は水色になり色彩感覚を失った。それから音を意識するようになり、常に小型録音機を持ち、「遠吠え」をひろっている。また、茜は代書屋・夏子を紹介。

 4人は、時期は異なるが、白井先生の辞書「バッテン語辞典」編集を手伝った、と判明。バッテンとは「×」。辞書から省かれた言葉、忘れられた古い言葉、生い立ちや履歴のわからない言葉をひろい集める作業。その白井先生が亡くなり、夏子の手元になぜか先生がある女性に送った手紙が遺った。先生の思いは女性に届いたのか、届かなかったのか、その言葉はどこに行ったのか。先生の「封印された言葉」が明らかになる。

(平野)

2026年7月6日月曜日

中上健次 路地のビジョン

 7.1 「朝日新聞」朝刊連載小説「早雲」始まる。戦国武将・北条早雲のお話。著者の砂原浩太朗さんは神戸元町育ち。

 通勤電車内、スマホスマホは相変わらずだけれど、本を読む人が何人かいらっしゃる。小学生は学習漫画や童話文庫を読んでいる。

7.2 BIG ISSUE530、特集〈市民による「水道」再生へ〉。



 本好き知人複数がSNSで紹介している本を注文。

7.5 久々の図書館、しばらくさぼっていた。

「朝日歌壇」より。

〈車窓から潮の匂いが流れきて視界にひろごる枯木灘見ゆ (東大阪市)池中健一〉

 ちょうど『中上健次 路地のビジョン』渡邊英理岩波新書960円+税)を読んでいる。中上は熊野の被差別部落=路地を舞台に作品を発表。199246歳で亡くなった。もっと長生きして書き続けてほしかった。ヂヂイは若い頃中上作品を読んだけれど、読みが浅かった。戦後の経済成長、性、暴力、差別がテーマということは、日本近代史を見つめ直すこと。



著者は大阪大学大学院人文学研究科教授。

〈中上は、路地の視座から(再)開発を描いた。(再)開発の動的過程は表象しづらいことも手伝い、小説作品で描かれる例は多くはないが、それを詳細に描いた点が、「戦後文学」における固有の位置を中上に与えている。中上における路地は、差別や(再)開発を表象する虚構の空間である。そこには、戦後日本社会の姿が、彼独自の周縁的な視野から描き出されている。/同時に、路地は、中上の文学的かつ理論的、思想的なビジョンであった。(後略)〉

(平野)