2022年7月26日火曜日

伊藤整詩集

7.25 孫と電話中、妹がスマホを持って歩き回るから目がクラクラする。姉は逸ノ城優勝でご機嫌。あんた若隆景応援じゃなかった? 逸ノ城も好きになった。お相撲さん、みんな好きらしい。

7.26 Web〈日本の古本屋〉に頼んだ本が到着。うれしくて何かウキウキ、子どもみたい。

 先日古書市で見かけた文庫セット、どうしようか迷った。1冊欠本とわかって諦めたが、〈日本の古本屋〉サイトに全巻揃いあり、しかも古書市のセットと同じ値段、私には大きいけれど決断。

 


 伊藤整 『伊藤整詩集』 新潮文庫 1958



 上記の古書市にて。

原本は『雪明りの路』(1926年、椎の木社)、『冬夜』(1937年、インテリゲンチヤ社)。伊藤が自伝小説『若い詩人の肖像』で描いた少年から青春時代の詩。北海道小樽の自然と日常生活、家族、恋愛を詠う。

 「暗い夏」

夏の草木は 自分の悩ましい緑に苦しんでいる。/よしきりは/どんぐいの叢に自分を見失ったのか/けたたましく鳴き続ける/一夜の雨の風に吹き送られた朝/空はもの悲しい灰色だ。(後略)

 どんぐい=いたどり、原文は旧字旧かな。

 1928伊藤上京、次第に詩から遠ざかり散文に移る。東京で新しい思想・文学・芸術運動に触れて、故郷の素朴で孤独な生活とは一変してしまった。それでも初期の作品を「私自身の原型」と大切にした。

(平野)

 

2022年7月24日日曜日

バイロス侯爵画集

7.23 友人夫妻と3年ぶりランチ。話は主として終活。家人は気の置けぬおしゃべりストレス発散。ヂヂ昼酒乾杯、視界に星飛ぶ。

7.24 「朝日歌壇」より。

〈夏空の坂道下り古書街へ何故か海へと向かう気分に (富士見市)星野幸雄〉

〈嫁いでも好み忘れず父の日のモネのヨットの絵の図書カード (観音寺市)篠原俊則〉

  家人は今日も気の置けない幼なじみとランチ。ヂヂ留守番。

 

 山本芳樹 『バイロス侯爵画集 世紀末の甘美な夢』 

京都書院アーツコレクション 1998 著者「恵存」の栞と挨拶文付き。



 フランツ・フォン・バイロス(18661924年)はオーストリアの画家。祖先はスペイン、オーストリアの貴族という家柄。彼自身が爵位を持つのか不明。最初の妻はヨハン・シュトラウス二世の娘。

 ビアズレーの流れを組む官能美。文学作品の挿絵や蔵書票で活躍したが、たびたび猥褻と告発された。

 日本で最初に紹介されたのは大正末から昭和初めのこと。梅原北明(先日取り上げた『地下出版のメディア史』の中心人物)によるらしい。

生田耕作、澁澤龍彦ら仏文学者が注目。1979年神戸の奢灞都館が画集刊行。猥褻容疑で発禁。資料提供した山本も取り調べを受けた。

(平野)

 

2022年7月23日土曜日

本屋になりたい

7.21 孫電話、一日遅れで姉が「ハッピーバースデー」を歌ってくれる。ヂヂはほんまにハッピーでございます。

 SNSで本屋時代の知人たちからメッセージいただく。私はほとんど投稿しないのに、あたたかい文言。感謝申し上げます。

7.22 ときどき義歯装着を忘れる。今日は昼お弁当を一口入れて気づく。毎回つくづく思う、バカやな~。

 姉孫「ハッピーバースデー」動画。いつもとちがって肩に力が入っている。緊張するタイプじゃないと思っていたけど。ほかの歌は普通に歌う。妹は歌に合わせて歩き回る。

 息子から祝い届く。ありがとう。

 

 宇田智子 『増補 本屋になりたい この島で本を売る』 

絵・高野文子 解説・小野正嗣 ちくま文庫 760円+税

 


 宇田は新刊本屋勤務を経て、2011年沖縄那覇の市場で小さな古本屋「市場の古本屋ウララ」を開店。本書は2015年同社「プリマー新書」の増補改訂版。

開業から10年、初版から7年、宇田も店も市場も沖縄も日本も世界も変わった。特に公設市場の建替とアーケイド再整備、近隣店舗の撤退、宇田も当事者になった。それにコロナ禍による休業。市場の古本屋を継続する意思を改めて宣言する。

〈その場しのぎ、その日暮らしなのは相変わらずだけれど、未来を想像することが少しはできるようになった。市場の歴史に目を向けることで、自分の時間軸が長くなったのだろうか。商品を棚に、あるいは地面に並べて、もしくは体にくくりつけて売っていた店主たちと、店主たちが守って盛り立ててきたマチグヮー。私もその歴史の片隅にいると思うと、妙にやすらいだ気持ちになる。(中略)先のことはわからない。わからないから想像して、今日の仕事をする。今日も、本屋になる。〉

「マチグヮー(町小)」とは「ウララ」のある市場一帯の呼び名。

(平野)

2022年7月21日木曜日

平成古書奇談

7.20 会社から、作業中は状況によってマスクをはずすよう指示あり。居住者さんも、マスクせんでいいよ、と言ってくださる。冷感タオルを首に巻いたり頭にかぶったり。青色だからフェルメールの名画のよう。そんなわけがない! のんきな高齢者。

ヂヂ、69歳。家人とビール乾杯。

 

 横田順彌 『平成古書奇談』 日下三蔵編 ちくま文庫 900円+税



 横田順彌(19452019年)はSF作家。SF古典蒐集をもとに明治文化史も執筆。

本書は古書をテーマにした連作短篇集。作家を目指す青年を主人公がいろいろな古書に出会い、事件が起きる。親しい古書店主とその娘が謎解きに協力。古書業界の話あり、SFあり、ファンタジーあり、ホラーあり。

一話一話面白いけれど、少々不満ある。怖い事件に巻き込まれても次の作品は淡々と続くし、店主の話には作り話の疑いを持つ。店主は娘と青年の交際に甘いし、簡単にかわいい大学生と付き合えるのは腹が立つ(言いがかり!)。青年の執筆作品は統一性がないし、彼はよく本を紛失する。全体がファンタジーと思えばいい。最終作品でオチがつく。

この連作は雑誌に掲載されただけで単行本未収録だった。横田死後にSF仲間と古書店主が蔵書整理して気づいた。

(平野)

2022年7月19日火曜日

ジャンパーを着て四十年

 7.11 今回選挙の投票率は52.05%(朝日新聞)。銃撃事件の衝撃があっても投票率は大きくは上がらない。有権者の半分くらいは無言。現状維持でよい? 1票で変わらんという諦め? 投票を強制できないけれど。

孫と電話、妹が姉の絵本を破ってしまって、姉怒る。

同級生から電話。3年ぶりに会う予定。

夜中から大雨。

7.12 積ん読山が一応消えて(探せばいっぱいあるけど)本屋さん。文庫4冊。

 


7.14 神戸阪急「古書ノ市」。レジに立つ顔見知り男子店主に手を振るが、応えてもらえず。ごぶさたしているから忘れられている。こうしてヂヂは孤独になる。文庫4冊で1300円、満足。ほしい文庫セットがあった。迷う。週末まで残っていたら考えよう。帰宅して調べたら出品セットに1冊欠本あり。今回は見送り。

 


7.16 孫姉妹、ハナカゼのよう。元気回復を待つ。

7.17 「朝日俳壇」より。

〈若き日に引きし傍線桜桃忌 (豊中市)鈴木和子〉

BIG ISSUE434号・435号、表紙・インタビューの人がどいう人か知らないことが多い。435号の裏表紙には英国王子登場。

 


7.18 GFうさこさんからメール。作家ウエブサイトに寄稿したそう。多忙の中連絡(安否確認)くださる。これも介護。

7.19 朝刊に、二代目若乃花訃報。北の湖ら「花の二八(にっぱち)」のひとり。私も同年生まれなので、よく使った。ご冥福をお祈りします。

 また大雨予報。

 

 今和次郎 『ジャンパーを着て四十年』 ちくま文庫 860円+税



自らの服から服装文化史、礼儀作法の由来、流行、家庭・職業・学校生活、衣服の経済を考えるエッセイ集。

関東大震災後のバラック建築スケッチから始まる「考現学」創始者。柳田國男の農村研究に参加するが、「考古」から「考現」転換によって破門される。当時から服装はジャンパー、いわゆる作業服に運動靴でどこでも行く。冠婚葬祭はなるべく辞退するし、どうしてもということなら主催者の了解を得る。頑固・偏屈というのではなく自由を好むだけ。

習慣・慣習は時代によって変わる。職場のクールビズは定着したし、学校制服の選択もだいぶ可能になった。

(平野)

2022年7月9日土曜日

名短篇、さらにあり

7.4 仕事休み。孫電話、姉は大相撲が楽しみ。妹はママのスマホを触りたくて囓りたくてたまらない。元気賑やか。

7.5 台風4号接近。すぐに温帯低気圧になったけど、大雨注意。

 朝、歯医者さん。義歯調整だけで早く終わる。また地下道の椅子に坐って読書、デパート開店を待つ。「波」7月号、JD・サリンジャーの短篇「彼女の思い出」。7月発売の短篇集から先行掲載。

7.8 午後の職場、掃除中、郵便受けに少し見える夕刊の見出しに驚く。午前中に元首相が狙撃された由。詳細不明ながら、身体が震える。私個人は元首相の思想・行動に反対の意見を持つが、暴力に与しない。夕方ニュース番組中に死去の報道。合掌。

7.9 姉孫おまちかねの新聞相撲番付、コピーして送る。

 同じ新聞の神戸版に女子の古本屋さん〈1003〉店主登場、「選挙前に読みたい本」コーナー設置。

 


 北村薫 宮部みゆき編 『名短篇、さらにあり』 ちくま文庫 20082月初刷

手持ちは同年同月第2

 先日紹介の短篇アンソロジー第2弾。収録作品、島崎藤村「ある女の生涯」、岩野泡鳴「ぼんち」、岡本かの子「家霊」、内田百閒「とほぼえ」、他、舟橋聖一、永井龍男、林芙美子、久生十蘭、十和田操、川口松太郎、吉屋信子、1112篇。

 自分で探してまでは読まないだろう作品ばかり。愚かな人、気味の悪い話、怪談、狂気。無理にテーマを見つける必要はないが、あえて言えば、人間の感情・行動の奇妙な話。

(平野)

 

2022年7月5日火曜日

地下出版のメディア史

7.2 みずのわ一徳社主、用事いろいろ来神。帰りの時間までちょっと一杯。出版、農の話拝聴。

「みなと元町タウンニュース」359号着。

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/2022/07/03/townnews359.pdf

NR出版会新刊重版情報」7.8月号着。連載〈を届ける仕事〉は栗原哲也(日本経済評論社会長)「翔べ心、本はその翼だ――JRC後藤克寛さんを偲んで――」。後藤さんは518日逝去、書籍取次会社「人文・社会科学書流通センター(JRC)」創立者のひとり。

http://www.nrpp.sakura.ne.jp/top.html

7.3 「朝日歌壇」より。

〈たのしみは学きゅうぶんこさがしだすおきにいりの本五十さつ目 (大阪市)おくの花純〉

〈この国の本屋もやうやく消えどまりううんとでかいか小さきままか (長野県)沓掛喜久男〉

〈ひとりづつ体を横にして入る神田の古書店に稀少本待つ (町田市)村田知子〉

 元町「こうべまちづくり会館」で期日前投票。


 大尾侑子 『地下出版のメディア史――エロ・グロ、珍書屋、教養主義』

 慶應義塾大学出版会 4500円+税


 

 著者は桃山学院大学社会学部准教授、社会情報学。姓の読みは「おおび」。検索すると、東京経済大学に移られたよう。

〈出版産業が近代化し、大衆への読書行為が普及した一九二〇年代を分岐点として、日本では読み物に対する「高級/低級」、「正統/非正統」という序列化がなされていった。〉

 知識人は「高級雑誌」=総合雑誌や岩波書店などの教養主義的書物、労働者は講談雑誌や『キング』他の大衆雑誌、というように。

昭和敗戦後の物不足の時代にカストリ雑誌と言われた雑誌があった。粗末な紙、内容はエロ・グロ、2030円(「週刊朝日」が1円、『値段史年表』朝日新聞社1988年)。活字に飢えた男たちが回し読みしてボロボロになるまで読まれたそうだ。貧乏学生は買えない。でも岩波文庫なら買える。知的・教養への憧れがあり、見栄もある。

では、低俗・低級な書物は読書に値しないのか? 読書は序列化されるものなのか?

 本書は「高級」「低級」という単純な図式ではなく、「高級文化としてのエロ・グロ」という文化・歴史研究、教養主義に基づいた出版活動に光を当てる。

まず、明治以降の教養主義の流れを概観。「教育-啓蒙」という基軸があり、対して「教養主義の裏通り」と言えるメディアの存在があった。文壇の主流から離れた人、プロレタリア文学者、社会主義者、前衛芸術家たち。

昭和初め、梅原北明(190146年)という人物を中心にしたネットワークがあり、彼らなりに教養についての考えた。軟派出版と呼ばれる変態性欲、猟奇犯罪、魔術、呪術、麻薬など、普通なら発禁になる書物を出版。法律の網をかいくぐり頒布した。『変態文献叢書』全9冊(1928年)内容見本は、当時ベストセラーの円本を批判し、自分たちの資料蒐集、内容の独自性、そして装幀、挿画、用紙、印刷、製本の贅沢さなど、「高級エロ」「愛書趣味」を誇る。限定会員500名募集、毎月180銭。

 円本や全集があらゆる本を網羅していると言っても、「不思議にも幾多知られざる裏通りや抜け道が残されて」おり、自分たちの興味の対象は「裏通りや抜け道を措いてはない筈です」。

 エロ本で儲けよう、ではない。民俗学、外国文献翻訳、江戸文学を渉猟し、漢字にルビをつけない。読者にある程度の教養・知識を要求する。良識や権威と無縁、書物を愛し、趣味道楽に徹した人たち。

(平野)寝る前に読んでいる。まだ少し残っている。毎晩おんなじところばっかり読んでいるような気がする。レコードが傷のところで行ったり来たり再生する感じ。寝てる。

 

2022年7月2日土曜日

名短篇、ここにあり

6.26 「朝日俳壇」より。

〈北向きの書斎は陣地額の花 (多摩市)吉野佳一〉

〈断捨離の進みて曝書わづかなり (いわき市)岡田木花〉

6.27 梅雨明け? 猛暑。春と秋が短くなった感覚はあるが、梅雨もか。

6.30 カレンダー見て、ああ今年も半分終わり。家人に言われて、植木の植え替えと網戸拭き(1枚だけ)やっつけ仕事。

 古本屋店主からメール。元町原稿を読んでくれている。顧客に「光村印刷」関係者がいらして、資料とコメントをもらってくださった。お客さんと店主に感謝。

7.1 仕事していると居住者さんが心配してくださる。熱中症気をつけて、休みながらやってね、管理人室のエアコン強く、などなど皆さん優しい。

「映画批評」第21号(神戸映画サークル)届く。毎回ありがたく。

 孫電話。姉はいつもどおりハイテンションで歌う。合わせて妹が踊る。

 

 北村薫 宮部みゆき編 『名短篇、ここにあり』 ちくま文庫 20081月初版

 手持ちは同年35刷。



 作家が選ぶ短篇アンソロジー。統一テーマはなくて、強いて言えば「意外な作家の意外な逸品」。書き手としても読み手としても信頼できるご両人が、面白い、と薦める12篇。

トップバッター半村良「となりの宇宙人」を読んだら、ヂヂの頭はSFで固まってしまって、2番黒井千次「冷たい仕事」も冷蔵庫から未確認物体が登場するのかと思いきや……。以下、小松左京、城山三郎、吉村昭、吉行淳之介、山口瞳、多岐川恭、戸板康二、松本清張、井上靖、円地文子。

北村・宮部編のシリーズ、捕物帖含め10冊出ているよう。ゆっくり探す。

(平野)