2026年4月12日日曜日

コクトーの食卓

4.9 中東戦争、停戦実現かと思いきや……。

「朝日新聞」文化欄、〈多和田葉子のベルリン通信 小さな書店の愛ある国批判〉。

https://www.asahi.com/articles/DA3S16440387.html



 ドイツ書店賞の話。ドイツでは年に一度、文化担当国務大臣から書店に賞が贈られる。前年度は百店以上が受賞。選考基準は、文化的なイベントを実施、児童の読書委推進に貢献、小出版社の本を販売、新しい経営モデル考案など。「厳しい生存競争の中で、商業主義に流されない多様な書店文化の伝統を守ろうという意志を感じさせる賞」。今年、大臣が三書店を候補リストから削除。新聞は「左翼系書店が削除された」と報道。大臣は、「ドイツはくたばれ」のスローガンに国の予算は与えられない、と答えたそう。

多和田はベルリンの書店「揺れる地球儀へ」を訪問。文学、哲学、世界情勢、社会運動史などが並ぶ。入口近くに環境保護や難民支援デモのチラシ。多和田の第一印象は、こういう書店が存在しなくなったら、それこそ国は「くたばって」しまうかもしれない、ということ。同店の書店員は、他の二書店と共に大臣・憲法擁護庁を相手に訴訟を起こすつもり、と語る。

ブレーメンの「ゴールデン・ショップ」は店先の日除けには、

〈「ドイツ、くたばってください」(英語の「プリーズ」に当たる「ビッテ」がついているので丁寧なお願い)と書いてある。「ビッテ」が付くと挑発的かもしれない言葉にアイロニーやユーモアが加わるから面白い。どんなふうに国を愛するかは各人の心が決めること。法律が口出しすべき分野ではない。批判的な愛もあっていいと思う。〉

三つ目の書店はゲッティンゲン「赤い街道」。多和田のドイツ語作品を出版するコンクルスプーフ出版(昨年同社が出版賞受賞した際に極右政党がクレームをつけた)に訊ねると、同社創業の1978年以来取り引きする書店。

〈……このように長い時間、連帯して様々な経済的困難を乗り越えて今日まで生き残ってきた小さな書店や出版社がこれから徐々に消滅の危機に晒され始めることのないようにと願うばかりだ。〉

 政府や自治体が書店文化を支援するのは自由(ヂヂイはそんなんいらんと思う)だけれど、権力ある者は批判を受け入れる度量が必要。

 

『コクトーの食卓』 レーモン・オリヴェ著 ジャン・コクトー絵 辻邦生訳 ちくま文庫 1000円+税



 日本語訳は1985年講談社から出版。原書は1964年刊。

〈パリ最古級にして世界最高峰のレストランのシェフが詩人コクトーのために書いた、伝説の55皿の料理レシピ〉(帯より)

 レーモン・オリヴィエ(190990)が料理のレシピ、食材選び、下ごしらえ、調理方法、温度管理、調理器具から盛り付けの食器などを語る。繊細な料理人の感覚と腕前、そこに芸術家コクトー(18891963)との交流、彼の作品や趣味嗜好、友人たちとのエピソードを添える。

〈私は美食家でもなければ、とりたてて健啖家というわけでもない。してみればレーモン・オリヴェは、一体どうした風の吹きまわしで、すでにただでさえ膨れ上りすぎてしまった私の関心事のリストに、新たに料理の一項を書き加えようなどと思いいたったのであろうか。思えば、たしかに私は、およそどんな職業にでも興味を惹かれ、たちまち熱中してしまう癖があるし、技術と、われわれを仕事へと駆りたてる神秘的な衝動とのバランスは、芸術分野のいかんを問わず注目に値する問題だというのが、私の年来の考え方でもある。きっとオリヴィエは、そのあたりの事情をちゃんと心得ているのであろう。〉

デザート「苺のジャン・コクトー風」の由来。作家シドニー=ガブリエル・コレット(18731954)死後、1955年コクトーが彼女の後を引き継ぎベルギーの仏語・仏文学王室アカデミー会員に迎えられた。コレット、コクトー、オリヴィエは近所同士のなかよしだった。アカデミー入会演説でコクトーはコレットを偲び、オリヴィエとの友情を語った。58年、ブリュッセル万博会場のフランスパビリオンからオリヴィエがテレビ放送で料理を披露。設備のトラブルや食材不足やら事故多発のなか、このデザートをつくり、コクトーに捧げた。

(平野)ヂヂイは美食家ちゃうし、料理にも挑戦せえへんけど、コクトーは神戸に来たことあるし、彼のスケッチも載っているし……。