2017年10月17日火曜日

昭和文学盛衰史


 高見順 『昭和文学盛衰史』 文春文庫 1987年刊

1956年から57年『文學界』連載、単行本(全2巻)は58年文藝春秋新社から。



30年前の文庫、よく焼けている。

 高見順(19071965)は福井県生まれ、作家・詩人。ダダイズムなど前衛芸術運動、社会主義思想の影響を受け、プロレタリア作家となる。治安維持法で検挙され転向、従軍。戦後は病を抱えながら作品を発表し、日本ペンクラブの活動や日本近代文学館設立に尽力した。70年、高見の遺志により詩人に贈る「高見順賞」が設立された。
 本書では高見自身の足跡と共に昭和文学史を回顧。
 大正末から昭和初め、全国で多くの文学同人雑誌が発行されていた。作家も既存の雑誌に発表するのではなく、友と同人雑誌を始めた。高見は島木赤彦の歌を紹介して、若き日の文学への思いを伝える。

《 我等の道つひに寂しと思ふゆゑにいよいよますます友を恃(たの)めり
  はじめより寂しきゆゑに相恃む心をもてり然(し)か思はぬか》

文学の友。

《この世に生を享(う)けて、ともに、文学の道を歩んで行く友である。》

高見は「寂しと思う心」に郷愁を覚えるが、礼讃するのではない。「偉大な文学こそ、我等の道ついに寂しと思う、強い孤独のなかから生まれる」と考える。
 しかし、資本主義社会では芸術・文学は商品である。プロレタリア文学が「文学を商品としてしか見ない資本主義社会の悪を衝いた」。
 同人たちが対立、抗争、分裂する。

《恃む友、相恃む文学の友と、いわゆるイデオロギーの相違ということで喧嘩別れをせねばならなかった。昨日までの友を今日は敵と呼ぶに至った。これは喜劇であったろうか。悲劇であったろうか。》
 プロレタリア文学の台頭は昭和文学史の重大事項だが、こちらも内部で対立、分裂が起こる。

(平野)