■ 宇佐見英治 『夢の口』 湯川書房 1980年
前回告白、画家さんにいただきながらほったらかしにしていた本。函入り、「定価 弐阡円」の表示。
随筆と小説。表題作は、夢の考察。
〈朝、誰かによび醒まされるとき、ついいまのいままで見ていた夢が断ち切られてその切口がいたましく感じられることがある。また別の場合には夢の推圧力が急に強まって、おのずと夢の口がひらいたというように、ぽっかり眼がさめることがある。〉
夢の残像は光に耐えられず消えてしまう。不思議な夢のときは追いかけるが、「あっというまに夢の口に逃げこんでしまう」。
私たちは、《私が夢を見る》と思っているのだが、荘子「胡蝶の夢」のように、「夢を見ている私が実は他の何者かによって夢見られている」と考えることもできる。荘子は、「大いなる目覚めがあって始めて人生が大いなる夢であることがわかる」とも言う。
今私は夢を見ているのか、目覚めているのか、誰かの夢の中なのか。
敗戦直後に書いた幻想小説「死人の書」収録。悲惨な戦争体験と戦後生活の不安を描く。
(平野)
湯川書房といえば京都のイメージだが、本書出版時は大阪市北区西天満。
PR誌『季刊湯川 1977 VOL.1』発行当時は同老松町。この号の執筆者は、宇佐見他、加藤周一、壽岳文章、小川国夫、肥田晧三、生田耕作。刊行案内には、塚本邦雄、寺山修司、金子兜太、高橋睦郎らの名が並ぶ。