■ 原田マハ 『美しき愚かものたちのタブロー』 文藝春秋 1650円+税
6月11日から東京上野公園にある国立西洋美術館で「松方コレクション展」が開催中だ(9月23日まで)。開館60周年記念の展覧会。
そもそもこの美術館は日本がフランスから「松方コレクション」を寄贈返還してもらうために設立した。では、その「松方コレクション」とはどういうもので、なにゆえフランスから返還してもらわなければならなかったのか?
本書にすべて書いてある。原田はキューレーターの経歴を活かして美術をテーマにした作品が多数ある。今から約100年前、神戸の川崎造船所社長・松方幸次郎は私財を投じてヨーロッパの美術品を蒐集した。第一次世界大戦による好景気という背景があった。彼は数千点におよぶコレクションを展示する美術館も構想した。
〈――どうせ美術館を創るなら、世界に比類なき美術コレクションにしてやろうじゃないか。たとえ極東の島国でもこんな立派な文化的施設があるのだということを、他国にも知らしめたいんだ。/松方の言葉の端々に、日本人がもつ「島国根性」を叩き直したいという気持ちが汲み取れた。/世界は広いのだ。井の中の蛙となって大海を知らずに過ごすのではなく、世界の中の日本の立ち位置をいつも認識する努力を怠らない。我々日本人はそうあるべきだ。/そして、そのためにも、美術はよき鏡になるはずだ。文化・芸術をいかに国民が享受しているかということは、その国の発展のバロメーターになる。すぐれた美術館はその国の安定と豊かさを示してもいる。もっと言えば、国民の「幸福度」のようなものを表す指標にもなるのではないか。〉
松方の志に共鳴し協力した美術研究家、戦火からコレクションを守った部下、返還交渉をした政治家・官僚たち。松方の夢を蘇らせる、実現する、そのために全力を懸けた人たちを描く。
松方のコレクションは激動の運命をたどった。金融恐慌によって川崎造船所は大打撃を受け、松方は辞任。国内にあったコレクションは売り立てにより散逸(浮世絵は皇室に献上)し、イギリスの倉庫にあったものは火事で焼失、フランスに残したものは敵国人財産として接収された。そのフランスから返還されるのだが、一部国宝級の作品は戻らなかった。その中にはゴッホの「アルルの寝室」(オルセー美術館蔵)もある。この展覧会で展示されている。それに行方不明だったモネの「睡蓮、柳の反映」(2016年発見され、返還)が修復されている。
(平野)
6月8日、元町1003にて高橋輝次さん(『雑誌渉猟日録』皓生社)、清水裕也さん(『漱石全集を買った日』夏葉社)と尼崎の古書店「街の草」店主加納成治さんのトーク聴講。6月11日、ギャラリー島田で秋のイベントについてホーホケキョ女史と相談。
本日は孫来神を待つ。1週間くらいいる予定。