2024年9月24日火曜日

行不由徑

9.22 「朝日歌壇」より。

〈板チョコをかじるみたいに読んでいるあなたに借りた「天の夕顔」 (明石市)埜藤裕子〉

「天の夕顔」は中河与一(18971994年)の純愛小説、1938(昭和13)年刊。神戸布引の滝近くに住む「あの人」を想う。

9.23 暑さ寒さも彼岸まで、一気に暑さ和らぐ。そうなるとヂヂの心配はトイレ回数が増えること。

 芸術の秋に先駆けて個展めぐり。福岡アリス(ルイス・キャロル信奉者には申し訳ない愛称)とデート。作家・島京子さん訃報記事「神戸新聞」を見せてくれる。98歳、海文堂でお世話になり、閉店後のイベントにも出席くださった。感謝と共に合掌。

アリスはヂヂより年下ながら立派な高齢者ゆえ、道々の話は互の健康問題。ヂヂのトイレを気遣ってくれる。

JR摩耶駅近く、山口砂代里〈わたしの本展〉。JR芦屋駅前、〈高橋健一の海洋画展〉。トアウエストのギャラリーロイユ、林哲夫〈心象風景〉。海文堂書店と縁の深い画家さんたち。在廊中の山口さん、高橋さんと旧交をあたためる。林さんには会えず、展示の自画像に拝謁。

元町駅前飲み屋で乾杯していたら、古書店主と遭遇。


 『行不由徑 ゆくにこみちによらず』 諸橋轍次記念館編 

新潟日報メディアネット 1800円+税



 漢学者・諸橋轍次生誕140周年記念出版(2023年)。諸橋は新潟県三条市(旧下田村)出身、『大漢和辞典』(大修館書店、通称「諸橋大漢和」)編纂。

本書は20194月から233月まで地元新聞「新潟日報」に連載したコラム(4名執筆)。漢字一字ずつ1400字超、音訓、意味、成り立ちを「諸橋大漢和」から解説。季節や地域の話題、時事問題も合わせて紹介。時期的にコロナ禍の話が目に付く。

〈  フク  「禍福はあざなえる縄のごとし」という言葉があるように、「禍」と対になる漢字。(ネ・しめすへん)には神や天という意味があり、「福」も天からもたらされる幸いを表す。ウイルス禍も、福へと転じてほしいものだ。 (卍) 202062日〉

〈  シン ジン かみ かん こう 新潟県には神社が約四七〇〇社もあり、その数は全国一。明治時代に人口が全国最多で、集落ごとに神社を設けたことが要因という。今年の初詣(はつもうで)では、新型ウイルス退散を願った人も少なくないだろう。 (つ) 2021317日〉

 複数の部首・文字が組み合わされた字、図形のような字、見たことない字がたくさん。何せ「諸橋大漢和」は親字5万字収録(私の持つ辞書は約1万字)。

 間違って思い込んでいる読みや意味、部首もある。前述「福」の「フク」を訓と思っていた。

「行不由徑」は諸橋の座右の銘。常に正道を歩み、公明正大に行動する。

 現代人は漢字をパソコンやスマホに頼る。機械が変換してくれるから覚える必要がなくなっている。読めない漢字、読めるけれど書けない漢字が多々ある。ヂヂは本を読んでいて辞書で引くが、あまり回数が多くなると億劫。後で調べようと思ってそのまま、ということもしばしば。孫(姉、小一)が国語辞典を楽しそうに繰っているのを見て、不精を恥じる。

 読後思うこと。もうひと手間かけてもらって、音訓索引がほしい。

(平野)

2024年9月19日木曜日

喫茶店文学傑作選 苦く、甘く、熱く

9.8 「朝日歌壇」より。

〈「車輪の下」読みしは高一夏なりきヘッセが生きていたとは知らず (大和郡山市)四方護〉

 ヘルマン・ヘッセ(18771962年)。

9.13 国内の主要政党も海の向こうの国も新しい政治リーダー選び。どの選挙にも参加できない。

荷風『断腸亭日乗(1)』読了。考えてみれば、堂々と他人の日記を覗いている。荷風は職を辞し、世間から一歩引き、肉親と離れ、妻子を持たない。友は多いが、嫌な奴は拒否。権力に尻尾を振らない。偉そうな説教をしない。己の恥を隠さない。女性との関わりも赤裸々に記録する。

……淫蕩懶惰の日を送りて遂に年を越しぬ。この日記にその日その日の醜行をありのまゝに記録せしは、心中慚悔に堪えざるものから、せめて他日のいましめにせむとてなり。〉(大正十四年十二月三十一日)

9.15 「朝日俳壇」より。

〈堕落論好みし父の墓洗ふ (横浜市)大塚かずよ〉

〈一冊のファッション誌より秋めける (伊万里市)萩原豊彦〉

9.17 墓参り、買い物に出て、お医者行き、ご飯の用意、日が暮れる。

9.18 マンション仕事、ヂヂ汗だく。個々の部屋の工事やら施設点検作業複数、作業員さんたち汗ダクダク。

 

 林哲夫編 『喫茶店文学傑作選 苦く、甘く、熱く』 中公文庫 

900円+税



 喫茶店、カフェが舞台の小説・エッセイ集2冊目。編者は「〈面白さ〉が倍増」と胸を張る。海外体験談を加え、抄録を取り入れた。前回紙数多いので除外した永井荷風「おもかげ」を収録。本書のメイン作品になった。

 副題の「苦く、甘く、熱く」について。フランス革命時代の外交官タレーラン=ベリゴールの言葉とされている「珈琲、それは悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、恋のように甘い」から。

 ヂヂ個人的には、稲垣足穂「カフェの開く途端に月が昇った(抄)」がありがたい。関西学院の先輩・今東光の武勇伝や担任教師の思い出が綴られる。登場する喫茶店は三宮神社近くの「パウリスタ」。

(平野)

 

2024年9月8日日曜日

断腸亭日乗(一)

8.27 大相撲9月場所、98日初日。新聞に新番付載ったので孫に写メール。

〈青山大介×とみさわかよの 二人展 鳥の目・猫の目〉(こうべまちづくり会館)最終日観覧。鳥瞰図絵師と剪画作家が描く元町商店街。

8.28 仕事は夏休み。週末、書店員先輩(現在は聖職者、遠方に赴任中)の帰省にあわせ飲み会予定。台風10迷走、開催危ぶまれる。

8.30 飲み会中止決定。それにしてもこの台風の動きは異常。

8.31 9.1 両日とも図書館入りびたり。作家のエッセイの一部を引用者の記述から孫引きしていたが、編集者に叱られる。「孫引きなどもっての外」。引用資料記載なし。 

作家が神戸の友人を訪ねる。散歩、坂上の公園へ向かう。友人が作家の多忙と疲労を気遣って声をかけてくれる。作家は司馬遼太郎、友人は陳舜臣。

〈かれは何度もふりかえっては、/「シンドイか」/と、くりかえした。〉

 見当をつけた本はハズレ。木を隠すには森の中。「こんなん見つかるか~?」。

さすがの神戸市立中央図書館、ありました~。

9.2 クッスーから残暑見舞い。古書愛好タカさんから著書寄贈。感謝申し上げます。

BIG ISSUE」販売員さんをまたしばらくお見かけしない。猛暑ゆえ無理は言えない。

9.3 野球観戦、燕対巨人。大阪京セラドームで巨人主催試合。観客の九割以上は巨人応援。最終回同点本塁打では球場全体歓声響く。延長の末、燕辛勝。

9.5 地域の資源ゴミ回収日。ゴミ出しに行かなワテがほかされますねん。

午後ギャラリー島田DM作業手伝い。地下閉廊による引越し終了。

9.6 週末、家人たちは旅行。ヂヂ留守番。それぞれが羽を伸ばしている。

 

 永井荷風 『断腸亭日乗 (一)大正六――十四年』 

中島国彦・多田蔵人校注 岩波文庫 1150円+税



 文人・永井荷風(18791959年)は38歳から41年間日記を書き続けた。簡潔だが、擬古文、漢語。ヂヂはチンプンカンプン、辞書引き引き読むけれど、同じ漢字を何度も引く。

 荷風は断腸亭から築地に仮住まいの後、偏奇館に移る。独居、母と行き来するが、親類縁者とは疎遠。

 天気、庭の草木・花、鳥声・虫語、月あかりなど季節の記録。体調不良、しょっちゅう風邪、腹痛、さらに歯痛の苦しみ。読書は漢籍、江戸文学、フランス文学原書。銀座、浅草を散歩し、友と語らい飲み食べる。演劇鑑賞、清元おさらい、句会、執筆と忙しい。ときどきガールフレンドや芸妓とデート。世の中の観察、文壇のことも。

 大正118月の記述から。演劇仲間との会合。会場の酒楼は主治医病院の隣。診察ではなく盃をあげるのは「頗意外の思ひあり」。

〈酔後欄干に倚つて河上を望むに数日前風雨の余波尚収まらず。濁浪岸を撲ち行舟亦稀なり。水風面を撲ち粟肌に生ず。十時半宴散ず。漫歩人形町に至り電車にて帰る。寓居の門を入るに月光廃園を照し虫声雨の如し。〉

 全9冊の第1巻。岩波文庫では『摘録 断腸亭日乗』(全2冊)が出ている。

 荷風さんは人気者。研究者も多い。先月「波」連載川本三郎「荷風の昭和」(全75回)完結。

(平野)