2024年11月17日日曜日

断腸亭日乗(二)

11.14 「朝日新聞」〈声〉欄に元ちくさ正文館店長・古田一晴さん追悼の投稿。「閉店の名物書店と店主を悼む」(愛知県 大川四郎)」

〈古田氏は「教養・文化の本拠地」づくりに大きな足跡を残された。〉

11.16 午前の臨時仕事を終わって、ギャラリー島田DM作業手伝い。例年1112月恒例展覧会、「石井一夫展」(11.2312.3)、「井上よう子展」(12.1412.24)など。

 家人用事で梅田。ついでに「BIG ISSUE3冊買ってきてもらう。

 夕方急ぎの資料コピーのため図書館。

11.17 「朝日俳壇」より。

〈深秋の古書肆(こしょし)に眠る資本論 (大阪市)上西左大信〉

「朝日歌壇」より。

〈ピカソの絵目鼻ちぐはぐなる意味を教へてくれし『名画を見る眼』 〈八尾市〉水野一也〉

(そんな眼をもちたいものと思いしは高階さんの「名画を見る眼」 (逗子市)織立敏博)

〈図書館で泣きだした児に保育士が小さく強く「ここでは泣かない!」 (横浜市)田中廣義〉

 高階秀爾さんは西洋美術史研究者、本年1017日逝去。著書『名画を見る眼』は岩波新書。

 

 永井荷風 『断腸亭日乗(二)大正十五昭和三年』 

中島国彦・多田蔵人校注 岩波文庫 1080円+税



 荷風40歳代終わりから50歳。持病の腹痛、風邪引きなど健康に自信なく気弱に。死後他人に見られたくないから手紙や古い原稿を隅田川に流してしまう。

女性関係は「毒婦」に振り回されるが、若い歌という女性を身請けして借家に住ませる。その家を「壺中庵」と名づけて通う。さらに歌に待合を経営させる。荷風が最も長く付き合った女性。

文壇とは一線を画すが、執筆・出版の依頼はひっきりなし。出版社に悪態をつきながらも、高収入を得る。江戸の漢籍、フランス文学を繙き、森鷗外や上田敏の文章に親しむ。

文学の師・広津柳浪、弟・貞次郎を亡くすが、親しい友との交流は続いている。友と酒を酌み交わし、歌と食事に出て、銀座や浅草を散歩。関東大震災後の復興により、東京の街の風景も風俗も日々変わっていく。

 昭和31231日の記。健康不安はあるが、子孫ないゆえ死んでも心残りなし、文学者の友なきは「わが幸福中の第一」と書く。身体弱く力ないから人を傷つけたことはないし、少し財産あり金銭上で迷惑をかけたこともない、女好きながら乙女に手を出したり道ならぬ恋もない。「五〇年の生涯を顧みて夢見のわるい事一つも為したることなし、是亦幸なる身の上なりと謂ふべし」。

(平野)

2024年11月12日火曜日

昭和問答

11.2 横浜、東京目指して出発。車内の友は『断腸亭日乗(二)』。新横浜駅手前で中国地方集中豪雨のため新幹線しばらく運休。東京駅折り返しの列車が動けないので全部停止。結局40分ほど遅れて品川駅着、山手線で東京駅。

 家人の従姉の孫が通う大学の文化祭見学。従姉の娘(従姪=じゅうてつ、というそう)夫婦と一緒だが、肝心の大学生(従姉の孫)はバイト勤務でいない。解散後、神保町の古本まつりを回遊。本は買わず。

11.3 日枝神社参拝、七五三のお参りで大賑わい。孫姉の誕生パーティー、家族集合。従姪家族も含め合計9名(孫パパ風邪欠席)。

11.4 家人買い物、ヂヂは上野「田中一村展」。午後家人と待ち合わせて横浜の娘宅。

11.5 本日も別行動。家人は墓参り、ヂヂは「英一蝶展」。恒例の神田明神参拝。湯島天神に足を伸ばし、途中の妻戀神社お参り。これも恒例、NR出版会事務局・くらら嬢、新泉社・安さんとランチ。東京駅で家人と合流して帰神。

 帰宅して新聞ザーッと。

「朝日歌壇」(11.3)より。

〈映画館とバス停と書肆(しょし)この町を出でし若きらとともに消えたり(観音寺市)篠原俊則〉

11.6 よその国の選挙。再びあの人がトップに立つ。分断、混乱、差別……、民主主義は時間がかかるし、理不尽なことも起こる。

11.10 「朝日俳壇」より。

〈バイブルも蔵書の一つ鰯雲(いわしぐも) (尾張旭市)古賀勇理央〉

 午前、みずのわ一徳と懇談。彼に苦労をかけた原稿、なんとか目星がつきそう。彼は富山の印刷所に向かう。

 午後、中央図書館。書店トークイベント開講前に進行役のキタダさんを訪ねる。大手書店の店長で出版社も主宰、著書や手がけた本を毎回贈ってくれる。イベントを知った時既に満席になっていた。ヂヂは挨拶のみで失礼し、本を借りて引き上げる。

 買い物がてら元町商店街で県知事選挙期日前投票。

 

 田中優子 松岡正剛 『昭和問答』 岩波新書 1120円+税



 江戸文化研究者と編集のプロの対話、『日本問答』『江戸問答』(共に岩波新書)に続く第三弾。

松岡 ……昭和って最初と最後が七日間しかないんだよね。昭和元年と昭和六四年。前半の「戦前」と後半の「戦後」に別れているけれど、前半の高揚は後半の挫折に巻きとられていった。そういう昭和を扱うには、こんな異様な時代を準備した明治も大正も見ておかないとね。江戸時代が一気に昭和化したわけではないんでね。

田中 ……『昭和問答』といっても、年号としての昭和(一九二六~一九八九年)の六四年間のみを対象にしようというんじゃない。金融恐慌から始まって満州事変、日中戦争、太平洋戦争、原爆投下、GHQ(連合国総司令部)による占領、高度経済成長といった昭和の出来事は、その因果の「因」が日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦とその後の好景気にあるのであって、昭和だけを切り離して考えることはできません。

 田中はこの「問答」でひきつづき語りたいこととして問題を3つあげる。

「私たちはなぜ競争から降りられないのか?」

「国にとっての独立・自立とは何か」

「人間にとっての自立とは何か」

 思索し、本を読み、書き、自分の言葉を見つけ、他者と語り合う。ふたりが読んできた本も紹介する。

 松岡は本書のあとがきを脱稿した直後に病状悪化し、急逝。ご冥福を祈る。

(平野)

2024年11月7日木曜日

駄目も目である

10.29 孫電話。姉が新しい絵本を読んでくれる。読み聞かせのお姉さんさながら。ヂヂバカちゃんりん。週末会いに行く。

10.31 10月終了。ここ数日は涼しくなったが、日本は10月も夏。

 

 『駄目も目である 木山捷平小説集』 岡崎武志編 

ちくま文庫 1000円+税



 木山捷平(190468年)岡山県出身、詩人、作家。姫路師範学校卒、東洋大学中退。兵庫県下で教職の後、上京して文学活動。太宰治らと同人誌を創刊し、日本浪漫派にも参加。作品は私小説だが、不幸な生い立ちやドロドロの恋愛ではなく、身辺の出来事を題材にして創作。病や貧困で苦闘の時代が長かったが、軍隊生活も帰還後の苦労も軽妙に描く。

家探し、お酒を求めての散歩。クズ屋に売った古釘の代金3円を持って何が買えるか町をうろついたり、妻に下半身の検査をしてもらったり、電車内で女性の膝小僧を観察したり。

「下駄の腰掛」

「私」は同人雑誌で男の性器は冷たい方が良いという記事を読んで、妻に調べてもらう。妻もバカ正直に従うが、温かいか冷たいか判断に困る。「私」は他人に見てもらう訳にもいかず、やけっぱちというかせっぱつまって、銭湯に出かける。しかし、営業時間までだいぶある。アイスクリームを食べたいがお金は銭湯代しかない。一度家に戻るのも何だし、銭湯の入口で自分の下駄の上に座って待つ。過去を回想。結婚当初のこと、数年前会った幼なじみの種畜業ことなど。そのうち銭湯開店。裸になってから石鹸を忘れたことに気づく。湯舟に一人だが、長く入っていられない。石けんのない手ぬぐいで体をこすっていると、今の分の有様が過去50年の人生を象徴しているように思う。

〈あと何年生きる――か知らないが、あと何年生きたところで、おそらくはこの調子で過ぎて行くのであろうように思われた。〉

文学回想「太宰治」では太宰の非合法活動や小林多喜二の死に言及して、当時の緊迫を伝える。

書名は囲碁好きの木山がよく色紙に書いた言葉から。駄目とは、黒白どちらが打っても陣地にならないことから、意味がない、役に立たない、という囲碁用語。解説の岡崎は木山をこう評する。

〈「駄目」を自認し、そこから作家人生において新しい「目」を打ち出したのだ。〉

(平野)

2024年10月29日火曜日

風呂と愛国

10.25 孫(姉)7歳の誕生日。はしゃいで変顔の写真にヂヂにっこり。例年誕生日祝いと神保町ブックフェスティバルに合わせて上京しているが、今年は一週間遅れになる。

10.26 息子が花束を贈られて帰宅。仕事一段落したよう。

 買い物のついでに元町商店街で家人と期日前投票。通常の投票所より行きやすい場所にある。

 孫写真、神保町ブックフェスで絵本買ってもらって、ランチ。

10.27 「朝日歌壇」より。

〈「ねじ式」をタブレットにて読みながら遠くにほへるむかしのインク (神戸市)松本淳一〉

〈いくつもの近場の書店消え失せて神保町へ行く日が増え来 (東京都)上田国博〉

 

 川端美季 『風呂と愛国 「清潔な国民」はいかに生まれたか』 NHK出版新書 980円+税



 著者は立命館大学准教授、専門は公衆衛生史。

 日本人は風呂好き、と言われる。「日本人らしさ」とか、「日本人の国民性」だと。

本書は、「日本の入浴の歴史を追いながら、入浴が清潔という概念と結びつき、日本人は入浴好きで清潔な国民である、という意識が生まれた歴史を紐解」く。

 幕末・明治の西洋人の眼差し、入浴習慣や公衆浴場に対する警察の監視、衛生上の取り締まり、海外の公衆浴場事情、そして「家庭衛生」から「国民道徳論」への盛り上がり、修身教育。「清潔」の重要性は国家主義や忠義と結びつけられていく。

(平野)だいたいカラスの行水。シャワーで汗を流すだけでも気持ち良いが、夏でも数分湯船に浸かりたい。

2024年10月22日火曜日

浅草寺子屋よろず暦

10.17 関東圏で続発している強盗事件、遂に犠牲者も出た。孫たちの住む地域でも被害あり、心配。

10.19 雨と風、これで季節が進むか。ギャラリー島田DM発送作業手伝い、買い物、図書館で資料コピー。孫姉運動会、あちらは晴天。

10.20 「朝日歌壇」より。

〈多摩緑道歩めばベンチの待ちてをり文庫ひろげて木蔭に憩ふ (小平市)真鍋真悟〉

「朝日俳壇」より。

読み終へるのが惜しき本秋の暮(くれ) (羽島市)緒方房子〉

ヤフーニュースにちくさ正文館・古田一晴さん追悼記事、フリーライター・大竹敏之。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7e913dce9421b082643d26a71f1c3824c9a56d82

 文章を書いていても、日常生活でも、注意不足というか、どうしようもないミスをする。それを何度も繰り返す。自分でもアホ・バカ・間抜けと思う。このところ炊飯器の予約時間を続けて間違っている。年齢のせいばかりではないようだ。

 

 砂原浩太朗 『浅草寺子屋よろず暦』 角川春樹事務所 

1700円+税



 PR誌「ランティエ」連載(202324年)。

 主人公・大滝信吾は浅草寺境内の子院で寺子屋を開いている。旗本の妾腹であることなど、話が進むうち素性や人間関係が分かってくる。子どもたちの悩み=親たちのトラブルを見過ごすことができず、解決に乗り出す。どれも裏社会に関わる、博打の借金、賭場の用心棒、みかじめ料など。寺僧を狙う仇討ちにも裏稼業が助太刀するが、信吾と兄(幕府御膳奉行)が治める。裏の元締めとっては小さな事だが、手下たちの面目がつぶれる。元締めとしてケジメをつけなければならない。信吾本人ではなく周りの人たちを困らせる。江戸の食料流通を止めて兄を窮地に落とし、長屋から住民を追い出す。

信吾と元締めの直接交渉。子どもたちと親、寺僧、実母、兄、幼なじみが駆けつける。元締めが出した和解の条件は、信吾が手下になるか、江戸を出るか。

 信吾は賭場での一瞬の昂揚、裏社会への興味を正直に語る。元締めが「それこそが、あんたの居どころなんじゃねえのかい」と誘う。さあ、どうする、信吾。

(平野)

2024年10月17日木曜日

大江戸綺譚

10.13 「朝日歌壇」より。

〈中学の全校生でイナゴ取り図書費作りき昭和のわれら(山形市)佐藤清光〉

 家人と京都大谷本廟墓参り。他に用事もなく、午後早めに帰宅。

10.14 家人と六甲アイランド、島内別行動。ヂヂは神戸ゆかりの美術館「宮城県美術館コレクション 響きあう絵画」。同館改修工事長期休館中に際して、所蔵品巡回。宮城県や東北地方ゆかりの作品、海外作家の作品、洲之内徹コレクションなど74作品。

10.15 早朝福岡さんからメール。13日古書店主・山田恒夫さん逝去。海文堂書店での古書イベント開催と「古書波止場」開設に尽力くださった。先日はSNSで名古屋ちくさ正文館の古谷一晴さん逝去のニュースあり。ご冥福を祈る。

10.16 新聞記事で神戸元町生まれの人形作家・吉田太郎さん2月逝去を知る。からくり仕掛けの「神戸人形」を復活させた人。詳細は「神戸人形のウズモリ屋」公式ページを。

https://www.kobotaro.com/kobedoll/index.php

 

 『大江戸綺譚 時代小説傑作選』 細谷正充編 ちくま文庫 

800円+税



 江戸を舞台にした時代小説怪談集。ほんわか因縁ばなしや真相究明もあるが、恐い怖い。人間の心にある恐怖や恨み、悲しみが怪談を作り出す。

木内昇「お柄杓」 木下昌輝「肉ノ人」 杉本苑子「鶴屋南北の死」 都筑道夫「暗闇坂心中」 中島要「かくれ鬼」 皆川博子「小平次」 宮部みゆき「安達家の鬼」

「安達家の鬼」より。

 紙問屋・笹屋の嫁「わたし」は義母の介護。「わたし」は家族の縁薄く、笹屋と同業の店で女中奉公(子守りと病人の世話)していて、縁談。義母には不思議な力がある。若き日の苦難時から鬼に守られていた。「わたし」は鬼が見えない。義母は、おまえの心が清いあかし、と言うのだが、

〈「人は当たり前に生きていれば、少しは人に仇をなしたり、傷つけたり、嫌な思い出をこしらえたりするものさ。だからふつうは、多少なりともを見たり感じたりするものなんだ。だけどおまえにはそれがない。ということは、おまえはあまりにもひとりきりで閉ざされた暮らしをしてきて、まだとして生きていなかったということなのだよね」/これからだよ――と、呟くようにおっしゃいました。(中略)/「良いことと悪いことは、いつも背中合わせだからね。幸せと不幸は、表と裏だからね」/辛いことばかりでは、逆にも見えないのかもしれない――だからやっぱり、おまえはこれから(、、、、)なのだよ。

 義母が亡くなり、「わたし」はの姿を見る。微笑んでいる。義母のまなざしに似ている。声をかけるとは消えた。義母の声が聞こえる。「――人として生きてみて、初めてが見えるようになるのだよ」。

 

(平野)

2024年10月14日月曜日

江戸川乱歩座談

10.6 「朝日俳壇」より。

〈捨て難き書をまた戻す夜長かな (多摩市)田中久幸〉

〈本の虫虫が大好き虫図鑑 (さいたま市)春日重信〉

〈宇能没すたわわに熟す葡萄なる (秦野市)浜田恵〉

10.8 森鷗外長男・於菟の生涯を描いた本に心動かされ、余計なお世話。出版社の昔馴染みの営業マンに関連資料コピーを送りつける。著者さんの役に立つかどうかわからないけれど、ヂヂのおせっかいは迷惑かもしれない。

10.9 孫電話。姉はいきなり「しりとりしよう!」。退屈していたか、それともヂヂババと遊んでやろうの心遣いか。妹は今日食べたものの報告と、明日食べる予定を教えてくれる。

10.11 「朝日新聞 鷲田清一 折々のことば 3231」。

 夏葉社社主・島田潤一郎『長い読書』(みすず書房)より。

〈自信のない声や、いい淀む声、朴訥な声や、なにかに身を捧げるような静かな声のほうに真実味を感じる。〉

10.12 日本原水爆被害者協議会(日本被団協)ノーベル平和賞受賞。

〈「ヒバクシャ」として知られる広島と長崎の原子爆弾の生存者たちによる草の根運動は、核兵器のない世界の実現に尽力し、核兵器が二度とつかわれてはならないことを証言を通じて示してきたことに対して平和賞を受ける。〉ノーベル委員会授賞理由から(「朝日新聞」10.12)。

 

 『江戸川乱歩座談』 中公文庫 1300円+税



 2024年は江戸川乱歩生誕130年。現在も大人気作家である。

……探偵小説の未来について多様な創作営為を持つ人々と広く意見を分かち合い、対話をもってジャンルの行く末を志向していく場を用意する、優秀なホストとしての乱歩像である。〉(解説・小松史生子)

本書は探偵小説仲間との対談・鼎談だけではなく、他ジャンルの作家や文化人らとも対談を収録。乱歩は寡黙のイメージだが、ホスト役を勤めて話を引き出していく。

 仲間と探偵小説そのときどきの現状、将来を語り合う。文豪たちの探偵小説趣味、探偵小説好きが語る批評、それに同性愛、心霊現象の話も。

 小林秀雄との対談で「独裁国に探偵小説なし」という話に。

……戦争のときにはドイツやイタリアでは探偵小説を禁じたでしょう。それに尻馬に乗って日本も探偵小説が弾圧されちゃったですよ。僕なんか七年ぐらい全然収入なかったですよ。(中略)ところがアメリカやイギリスは塹壕の中で探偵小説のポケット版を読みながら戦っていたじゃないか。これはちゃんと裁判を守る国だ。独裁国ではこういうものは流行りこないということを戦争中にさかんに向うの人も言いました。(後略)〉

(平野)