2025年4月26日土曜日

文品

 4.20 「朝日歌壇」「朝日俳壇」より。

〈もう一度「鬼の研究」読みたくて図書館の本予約して待つ (船橋市)大内はる代〉

〈読み返す「鬼の研究」朧(おぼろ)の夜 (名古屋市)山田邦博〉

「鬼の研究」は3月をもって「朝日歌壇」選者を退任した歌人・馬場あき子の本。

 買い物の無人レジやらスマホやらヂヂイの操作機械は拒む (神戸市)よおまる

4.21 拙著出版予定を知る人たちが応援の言葉をくださる。ありがとさん。でもね、まだまだ直しが必要、図書館調べやら関係先に問い合わせ。お世話をかける。

4.23 地元編集さんから須磨区にあった本屋さんについて質問あり。ヂヂイ分からず、元経営者Kさんに面識あるものの、連絡先も知らず。遠方にいる書店員先輩に教えてもらって、直接お話を聞くことができた。人の縁は大事。

4.25 『近代出版研究 第4号』〈特集 書物百般・紀田順一郎の世界〉(近代出版研究所発行、皓星社)を読んでいる途中。出版・書籍全般に詳しい評論家、愛書家、作家、翻訳家、近代史に映画に日本語研究……、武芸百般ならぬ「書物百般」の人物。その紀田(1935年生まれ)の卒寿を記念する特集。荒俣宏の35千字寄稿はじめ多彩な執筆陣、60余名のアンケート回答など大特集。他に「片山杜秀ロングインタビュー」も。個人的には、神保町のオタ「夜の蔵書家が狙う発禁雑誌」がうれしい。昭和初めの雑誌『夜の神戸』を発掘、紹介する



 

 後藤正治 『文(ぶんぴん) 藤沢周平への旅』 中央公論新社 

2400円+税



 時代小説・歴史小説の作家、藤沢周平(19271997年)の生涯をたどりながら、年代順に作品鑑賞をする。装幀・間村俊一。

……作家として藤沢が出発して以降、転機、展開、成熟、深化、練達、枯淡……へと流れ進んできた歳月を、私の好みの作品を解析しつつ辿ってみたものである。〉

 藤沢の言。

〈作家にとって、人間は善と悪、高貴と下劣、美と醜をあわせもつ小箱である。崇高な人格に敬意を惜しむものではないが、下劣で好色な人格の中にも、人間のはかり知れないひろがりと深淵をみようとする。小説を書くということは、この小箱の鍵をあけて、人間存在という一個の闇、矛盾のかたまりを手探りする作業にほかならない。/それが世のため人のために何か役立つかといえば、多分何の役にも立たないだろう。小説を読んでも、腹が満たされるわけでもないし、明日の暮らしがよくなるわけでもない。つまりは無用の仕事である。ただやむにやまれぬものがあって書く。まことに文学というものは魔であり、作家とは魔に憑(つ)かれた人種というしかない。そして、それだけの存在に過ぎないのだ。〉

「人品骨柄」という言葉がある。行動や言動だけではなく、文章にも書く人の品性が現れる。作品、文章には藤沢の生活体験、家族・故郷への思いが込められている。戦争、敗戦、闘病、働きながら執筆、妻の死……、挫折しても、失意の底にあっても、健気に懸命に生きてきた。同じ立場の人たちに優しい眼差しを向ける。

〈藤沢は、時代(歴史)小説を舞台に、人の世に存(あ)り続けるものを主題とした作品を書いたが、〈品性〉に欠く者を主人公にはしなかった。私にとって人・藤沢周平とその作品は、長く、何ものかであり続けてきた。〉

(平野)

2025年4月19日土曜日

古本屋の誕生

4.14 「現代詩手帖」4月号特集〈モダニズム詩再考〉。季村敏夫・高木彬編『一九二〇年代モダニズム詩集――稲垣足穂と竹中郁その周辺』(思潮社、2022年)は著名な稲垣・竹中周辺の多彩な詩人たちを取り上げている。その編者二人の対談(202412.21 神戸文学館)他、大正から昭和初期の詩人たちを取り上げる。



4.16 家人が買い物ついでにBIG ISSUE500号、501を買ってくれる。ヂヂイが元町駅を通る時には販売員さんに会えない。

4.17 ギャラリー島田DM作業お手伝い、ヂヂイにとってはボケ進行減速リハビリ。島田社長の孫ちゃん(昨年12月誕生)と初対面、抱っこさせてもらう。愛想よくて笑ってくれてヂヂイは幸せ。個展開催中の画家さんは拙著で触れる元町の喫茶店と深い縁のある方と知る。帰りに本屋さん寄って、『近代出版研究 第4号』(近代出版研究所発行、皓星社)〈書物百般・紀田順一郎の世界〉

 

 鹿島茂 『古本屋の誕生 東京古書店史』 草思社 2200円+税


 フランス文学の先生。文化・風俗、古書蒐集、評論と守備広範囲。書評アーカイブ主宰、共同書店開業、古書店研究など出版業界にも貢献。

「本屋はなぜ新刊本屋と古本屋に分かれたのか」の疑問から始まって、出版、写本、印刷など本の歴史から、出版ビジネスの歴史にも話が及ぶ。歴史資料に残る最古の書物売買と移動に関する証言は平安時代の書家・藤原行成の書状。経師(きょうじ、写経に従事する者)の妻が不要になった手本や古書を売りに来た、とある。17世紀初めポルトガル人宣教師が著した『日葡辞書』には「経師屋」の項目に「経開き、拵へ、綴づる家。印刷所または本屋」と記されている。鹿島は「経師が広い意味での本屋の起源であることを示している」と。

出版、取次、新刊販売、古本販売という業態の発生、成立から現在の古書店業界にいたるまでを詳細に解説する。そして、古書業界の未来を考える。

 神田神保町の古書店街は世界的な遺産と言ってよい。この街が永続していくためには、「超専門性と超大型性という二つの方向性を失わないようにすることが肝要」。そのためにはどうすればよいか。鹿島は二つ提案する。これは本書を読んでちょうだい。

そのうえで最終結論。神田神保町の古書店街を守る「究極のパワー」は「神田神保町の古書店主であることの誇りなのであり、それ以外にはありえない」。

(平野)

2025年4月15日火曜日

墳墓記

4.9 勤務先事務所に留守電録音。携帯電話会社から電話使えなくなるという音声あり、連絡するよう誘導する。テレビの情報番組で取り上げていた詐欺。先日は自宅に健康保険医療費還付の電話あり。警視庁を名乗るのもあった。メールもたくさん届く。クレジット会社、金融、宅配、通販……。詐欺の罠が日本中、世界中にばらまかれている。気をつけましょう。

4.11 相変わらず留守電録音。今日のは総務省を名乗る。

4.12 家人と〈パウル・クレー展〉(兵庫県立美術館)。館内ほとんどの作品が写真撮影可となっていて、あっちでもこっちでもパシャパシャカシャカシャ。カップルがそれぞれ撮影していたりして、うるさい、邪魔。図録とかポストカード買えば~。「撮影可」のサービスいらない。

 帰りに〈ワールドエンズ・ガーデン〉に寄って、拙著案内チラシ手渡す。

4.13 「朝日俳壇」より。

〈花冷えや本屋の消えた文化都市 (三郷市)木村義熙〉

2025年日本国際博覧会 大阪・関西万博 2025」開幕日。お天気悪くて観覧者お気の毒。在阪放送局はおべんちゃら報道しているけど、関係者は盛り上がっているのかな? ヂヂイはめんどくさいので行かない。

 

 髙村薫 『墳墓記』 新潮社 1900円+税



 意識不明、重態の「男」が仮死状態のなかで考える、夢を見ている。名は不明。素性がだんだん明らかになる。能楽師の家に生まれたが、小学生の時、祖父が狂気から面をつけ能衣装のまま自死する。粗暴な父を嫌い、能楽師にならず、法廷速記者として長く働く。娘は飛び降り自殺。「男」は古稀を期に家族親族友人知人一切と縁を切り出奔。数年経ち自身も自殺を図り、いま生死の境にいる。

「男」の脳内に浮かぶのは幼少期から親しんだ古典文学。記紀万葉はじめ、歴史書、和歌、物語の数々、能、猿楽。日本文学史に表現された生と死の世界をさまよう。かつて見た映画や舞踏、それに音楽、家族との生活を思い出す。

能楽から逃走した「男」は改めて祖父と父の芸能を理解する。「男」にはもう身体感覚はない。意識だけの夢幻の世界にいる。祖父と父が演じる死者と生者、亡霊、鬼。その墳墓の舞台を見つめている。

(平野)

2025年4月8日火曜日

断腸亭日乗(三)

4.2 花冷え長引く。ヂヂイは原稿最終直し大詰めで図書館通い。目当ての資料以外にも目が行く。詩の雑誌に神戸の詩人対談あり、しばし閲覧。これは買って読まねば。

 買い物から帰ったら郵便着。

「NR出版会新刊重版情報 595号」、連載企画「本を届ける仕事」は、熊本市・長崎書店の児玉真也さん、〈これからも、地域の本屋であれるよう〉。

蔦屋書店のキタさんから郵便届く。                       「BFC BOOK FAIR CHAMPIONSHIP」(書店員がフェアの腕を競い合う王座)の公式マガジン。彼が企画し創設。出版業界、印刷会社、紙商社、の協賛、個人・他業種からクラウドファンディング支援を得、さらにプロレス団体も参加。この3月初代チャンピョンが決定した。企画から王座決定までのイベント、舞台裏の活動など記録とその後を報告する。

https://book-fair-championship.com/

 初代チャンピョンは久保田理恵さん(MARUZEN&ジュンク堂書店新静岡店)。

〈新社会人応援フェア Working girl Routine #本庄静子の一日〉。新社会人・本庄静子(架空の人物)を設定。一人暮らし、仕事の悩み、美容、趣味など彼女の新生活を応援する。

2回防衛戦が組まれる。

キタさん、仕事多忙のうえに次々と大きな企画を実行する。それも自分の店・会社だけではなく出版業界全体を見据えたもの。



4.5 朝、版元と本の打ち合わせ。いつもはメールで間違いを叱られるが、今日は顔を合わせて。まさに面罵!

4.6 本で取り上げる〈三菱・川崎労働争議〉の写真。古本屋店主の祖父にあたる方が写っていて、お話を聴く。約束するのに、週末の昼間は野球観戦ゆえ午前中になる。トラキチだった。

 会談すんで、近所の友人夫婦=同級生を訪ねる。話の中身は持病に家族関係の︎ホニャララ。

4.8 久々の臨時出勤。桜舞い散るなか、小学生たち登校時間。

 

 永井荷風 『断腸亭日乗(三)昭和四七年』 岩波文庫

中島国彦・多田蔵人校注  1150円+税



 不況、戦争の足音、政治家や経済人に対するテロなど社会不安。東京の賑わいは郡部に向けて膨張していく。この頃、荷風は軍が中国に侵略することを憂う一方で、要人テロには理解を示す。のちの軍国主義批判に至るまでの気持ちの揺れ。

繁華街で友と歓談し、街の風俗の変化を感じ取る。郊外を散歩しては古い町並みや古社寺の跡を懐かしむ。私生活では愛人が病み、別れを決意するが、愛情も残る。

(平野)

 

2025年4月1日火曜日

ウスバカ談議

3.25 家人と京都大谷本廟墓参り。平日朝、通勤ラッシュ終了して電車楽チン。春休みだし、観光客はたくさん。

花粉舞い黄砂たなびく墓参り  よおまる

3.27 福岡アリスメール、早速拙著予約してくれた由。

3.30 「朝日歌壇」より。

〈図書館に陽がさして来てしずかなり受験シーズン終わりし日曜 (橋本市)秋月晶江〉

 拙著に掲載する写真の人物の名前不明。ずーっと前のミニコミ誌「ほんまに」古本屋店主さんの寄稿を思い出し、ご教示願う。感謝いたします。

 図書館で知人に遭遇、立ち話。お子さんご一緒、ヂヂイはしゃぐ。

 

 梅崎春生 『ウスバカ談義』 解説・荻原魚雷 ちくま文庫 

1000円+税



梅崎生誕110年、没後60年。第一次戦後派の作家、戦争小説で知られる。ユーモア小説もあり、本書はその短編集。画家で定時制学校の教師・山名が小説家の家に出入りしていろいろ世話を焼き、雑用を引き受ける。小説家と奇妙珍妙な会話、やりとりを繰り返す。

表題作は、駅でのサラリーマンの口喧嘩。足を踏んだ、踏まれたから、「大バカ野郎」「ウスバカ野郎」と応酬。「ウスバカ野郎」と呼ばれた方が激昂し、鞄を捨て相手の胸ぐらをつかむ。

「すると相手も怒って取組合いになるのかと思ったら、意外にもしゅんとなって、うん、なるほどウスバカは言い過ぎだった、取消そう、と言ったもんですからね、いきり立った男も気を抜かれたらしく、相手の胸ぐらから手を離し鞄を拾い上げ、これから言葉に注意せよと捨てぜりふを残して、こそこそと人混みの中に逃げて行ったですな。(後略)」

 山名が言うには、

「大バカよりウスバカの方がののしり方としてきついんですよ」

「大バカてえのはね、バカの大なるものですから、箸にも棒にもかからない手合いのことです」

互いがののしり合いの言葉とわかっている。

「ところがウスバカの方はそうは行きませんや。ウスバカというと、バカの程度が浅いやつで、普通人よりちょっと知能程度が低い手合いです。社会生活もできるが、どこか釘が一本抜けているという感じのものです」

お互いに自分が「ウスバカ」という気持ちが胸の奥底にとぐろを巻いていて、一番痛い真実をついてしまった、つかれてしまった。

「口喧嘩にもルールがありましてね」

 山名には実在のモデルがいて、梅崎作品にたびたび登場する。梅崎自身の姿も投影されている。

(平野)

2025年3月25日火曜日

春山行夫と戦時下のモダニズム

3.20 実家に彼岸のお供え持参。

知人電話、ヂヂイにお悩み相談。それは相談者間違えてますよ、頼りにならんよ。

元町駅前の「BIG ISSUE」販売員さん交代のよう。499号購入。表紙とインタビューは絵本作家・ヨシタケシンスケ。自ら怖がりで不安症と語る。

〈生きづらさ、しんどさを抱えてきたからこそ「自分ならこう言ってもらえたら、少しは楽になれる」ことを、ヨシタケさんは描き続けてきた。絵本はヨシタケさんにとって「心の松葉杖」なのだ。〉

本屋さんで新刊、『ヨイヨワネ あおむけ&うつぶせBOX(ちくま文庫、2冊セット付録付き)。「良い弱音」。「日々あったこと、思ったことを弱音とともにスケッチ」。



3.22 前回ブログ、拙著紹介で表紙写真の写真家名を誤記。いつものバカバカ。正しくは「安井仲治」です。訂正のうえ、お詫びします。

3.23 「朝日俳壇」より。

〈殺人へ頁(ページ)をめくる春夜かな (東京都中野区)吉田徹夫〉

「朝日歌壇」より。

〈バースディ女孫に贈る詩を求め半世紀ぶり書店立ち読み (一宮市)今出公志〉

〈書棚には高橋和巳の本ありて一途に読んだ大切な本 (別府市)藤内浩〉

〈滅びゆくもの美しやヴェネツィアの夜の灯(ともし)に「死者の書」を読む (蓮田市)石橋将男〉

ギャラリー島田DM発送作業手伝い。通信に早速拙著刊行予定記事を入れてくださっている。ありがとさん。


 

 脇田裕正 『春山行夫と戦時下のモダニズム 数・地理・文化』 

小鳥遊書房 2700円+税



 著者は慶應義塾大学、中央大学非常勤講師、比較文学研究。

春山行夫(19021994年)は詩人、文芸批評家、編集者。昭和戦前の思想・芸術運動「モダニズム」の代表的人物。モダニズムは、革新、前衛、科学、実験、技術、幸福、正義、反ファシズムである。

戦時下、多くの文化人同様、春山も日本文学報国会や大東亜文学者会議に加入、対外宣伝雑誌『FRONT』編集など戦争協力者とならざるを得なかった。しかしながら、春山の発言や活動を見ると、その思想・行動には「一貫して反精神論的で反非合理的な見解が見られる」。多くの作家・文化人たちは単純な愛国精神論を発表するだけ。春山は世界的視野で戦争を考え、精神論ではなく近代戦争の総力戦=物量のリアリズムを理解していた。合理的・客観的に分析し、農業生産や物流、植民地経営など具体的な提言をし、欧米の海洋文学から海・空の支配の重要性を主張する。エッセイでも、扇情的な言葉ではなく数字や風物誌を紹介して戦争を語る。『FRONT』は前衛的革新的デザインで知られる。

 著者は言う。

「モダニズムを、たんなる流行現象として取り入れたのではなく、生き方として春山は構築したのである。たとえそのモダニズムがおかしなものと他人から思われようと気にしない精神のさが春山にはあった」

 春山を取り上げることは、

「戦時下の春山の軌跡を検証することは、私たちを支配している/いく時代の力に対して、いかに考え、いかに批判的に私たちは行動するのかを考えることでもある」

 ヨーロッパで生まれたモダニズムの思想・運動は第一次世界大戦の惨劇の反省という意味があった。日本は国家として戦争敗北・悲劇を経験していなかった。

(平野)

2025年3月20日木曜日

日本賭博史

3.16 「朝日歌壇」より。

〈山積みの本と議論と一升瓶思い出す夜に飲む茶碗酒 (石川県)瀧上裕幸〉

〈戦禍にも書店増えゆくウクライナ心の支え求めるように (中津市)瀬口美子〉

 花壇のさくらんぼの花、雨で散った。拙著ビラ担いで、ギャラリー島田、J堂、1003、うみねこ堂書林、花森書林を回る。途中買い物。担当さん見当たらずしばらく店内うろついたり、忘れ物して取りに戻ったり、無駄な動きが多い。

3.17 老人力で自分が困るのは仕方ないけれど、人様に迷惑かけることがある。ごめんなさい。

3.18 機関誌から依頼されて海文堂の元同僚に原稿執筆を打診していた。断わりの連絡あり。経験上、大事なことは多忙な人に頼むのが良いと思っている。今回は残念。

 

 紀田順一郎 『日本賭博史』 ちくま学芸文庫 1100円+税



 近代史や出版・書誌に詳しい著述家。古書を題材にしたミステリーもある。初版は1966年桃源社刊『日本のギャンブル』、86年中公文庫。今回改題、改訂。

神事や娯楽が、賭け事の材料になる。古代から始まっている。双六、サイコロ、花札、富くじなど賭博の仕組み、ルールなど紹介。時代時代の賭博から見る日本文化史。

本書の話は1960年代までのことで、賭博の大衆化が進んだと言っても宝くじの当選金は一千万円(1966年)。現在は金額の桁が違う。宝くじも競馬もテレビコマーシャルで煽る、刺激する。バブルの時代には株の個人取引が広まった。ゲームの形態もコンピューターやらインターネット。大阪に巨大カジノができる。

かつては麻雀やゴルフも賭け事だったが、スポーツ・ゲームとして社交の手段となっている。ギャンブルとは意識されていない。しかし、紀田は「表面的な観察にすぎない」と言う。「もともと人間社会には不確定、ないしは不価値的な要因がつきものであるから、私たちは生活者として「賭ける」という意識から解放されることはない」。

……現在の社会が相対的に安定しているとしても、一方では学校や企業という局面を例にとってもきびしい競争に満ちており、人間の合理的な努力だけでは片づかない要素が多いことは否定できない。(中略)このような安定社会なりの不平不満を外に逸脱させるためのシステムとして、スポーツや各種の趣味があることはいうまでもなく、昔ほどウエイトが高くないにしてもギャンブルというものの存在理由があることになる。人はスポーツやギャンブルなどを通じて、危険な衝動としての投機心をたがいに確認し合って安堵するのであって、そこにつきあいというものの深層的な意味がある。(後略)〉

 スポーツや芸能人への熱狂も、懲りないネズミ講も「同じ文脈の中にある」。

〈ギャンブルの効用が他の分野に拡散しはじめたことは、これまでにない現象であって、賭博史は新しい局面をむかえたことになるのである。〉

 私は博打の才能ない。パチンコ勝ったことがない。複雑なルールは理解できない。集中力なし、持久力なし、度胸なし、根性なし。でもね、賭博の漫画を読んで、賭け事の高揚感はなんとなくわかる。落語の富くじやバクチ話を面白がっているのが分相応。

(平野)