■ 髙田郁 『あきない世傳 金と銀 源流篇』 角川春樹事務所ハルキ文庫 580円+税
少女幸(さち)が困難にぶつかりながら、周囲の人びとに助けられて成長していく物語。舞台は西宮から大坂で、馴染みのある地名が出てくる。
「世傳」は「せいでん」と読み、「代々にわたって伝えていく」という意味。《……主人公・幸が商いについて真摯に悩み、考え、知恵を絞り、商人として育っていく。同時にそれは、店やひと、それに商いそのものを育てていくことになります。題名には、彼女の歩んだ商道がのちの世まで伝わっていけば、との願いが込められています。》(巻末「治兵衛のあきない講座」より、治兵衛は幸の才能を見出す番頭さん)
幸の父は学者、摂津国武庫郡津門(つと)村の有力者の支援で塾を開き、近在の若者たちを教えていた。幼い幸は手習いだけではなくもっと学びたい。七夕の短冊に「知恵」と書く。母は女に学は不要と言う。兄は幸に漢字を教え、外に連れ出しては自然の恵みや人の暮らしについて話してくれる。
「知恵は、生きる力になる。知恵を絞れば、無駄な争いをせずに、道を拓くことも出来る。知恵を授かりたい、という幸の願いはきっと叶えてもらえるよ」父は人の暮らしも政も基本は農業であるべきと言う。商人を嫌い、「商とは、すなわち詐(いつわり)」と子らに説く。兄は幸に『経済録』という書物で得たこと――武士は商人の金銀に頼って暮らさざるを得ない、物の売買はもっと重要になる、と教える。
享保の大飢饉、疫病、被害が日本中に広がる。幸にも不幸が襲う。兄が急死し、続いて父も亡くなる。幸は母・妹と離れ、9歳で大坂天満の呉服商「五鈴屋(いすずや)」に奉公に出る。父が軽蔑した商人の世界で生きていかなければならなくなった。その五鈴屋は繁栄の元禄時代に創業して4代目だが、享保の不景気で厳しい経営状態にある。幸は店には立ち入ることができない女衆(おなごし)の身分、どう商いに関わっていくことになるのか。
ファンが待っていた新シリーズ。カバーの絵は前作と同じく卯月みゆき。
(平野)そろそろ出る頃と思って11日に本屋さんに行きましたが、まだでした。12日に福岡さんに会いましたら、「たまたま本屋さんに行ったら出ていた」と言って見せてくれました。なんて運がいいんだ! 悔しい! 13日、ありました。友だちの分といっしょに買いました。