2018年11月13日火曜日

清水町先生


 小沼丹 『清水町先生 井伏鱒二氏のこと』 
筑摩書房 1992
ちくま文庫 680円+税 976月第1刷(私のは201592刷)



 小沼丹(191896年)、小説家、英文学者。今年は生誕100年で、幻戯書房が未刊行作品集や随筆を出版している。
 小沼が高校時代に愛読する井伏に作品を贈ると、感想のはがきが届いた。大学生になって思い切って荻窪清水町の井伏宅を訪問、師と仰ぐ。
 小沼が朝早く訪ねると、師は原稿を書かないといけないと言う。すぐ帰ろうとすると、まあお茶ぐらいと言われる。師は将棋盤を出してくる。ちょっとだけやろう、から延々。師は「原稿なんて、いいんだ」となる。勝つまでやる、トータルで勝つまで続く。師は体力がある。小沼はふらふらになって帰る。
 小沼は釣りをしないが、師のそばで見学。1尾も釣れないこともある。名人でも釣れないことがあるんですか、と訊く。
――うん、魚には人間を見る眼があるからね、君が傍にゐると寄つて来ない」

旅の思い出、酒、太宰治のことなど、師の人となりをあたたかく語る。
 函、文庫カバーはともに生井巖の描く「むべ」。あけびに似た実ができるそう。師からもらった苗を育てる。師に葉は何枚になったかと訊かれたが、小沼は答えられない。師は嘆かわしいという顔、小沼は憮然。葉は3枚、5枚、7枚と出る、七・五・三でめでたいから植えると教えてくれる。家に帰って見ると4枚葉があった。師に報告すると、「井伏さんは眼をぱちぱちさせた」。
(平野)
 先月単行本を持っているのを忘れて(気づかず)文庫を買ってしまった。単行本も同じ古本屋さんで買ったはず。単行本は古本、文庫は新刊(ここは気に入った新刊書を出版社から直仕入している)。岩波文庫復刊の『井伏詩集』を見つけて、店主と井伏の話。店主が以前井伏宅を探して荻窪を歩き回った話を聞いた。「ほな、ついでにこれも」、と記憶する。どちらも美しい本だからいいではないか。しかし、なあ、と思うオオボケ。
 文庫解説は庄野潤三。
 
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