2018年11月6日火曜日

小村雪岱挿繪集


 『小村雪岱挿繪集』 真田幸治編 幻戯書房 3500円+税

 
 雪岱は本の装幀、挿絵、舞台美術、商業広告で活躍した。本書は挿絵に注目。

〈挿絵画家としての小村雪岱。/雪岱の名前が現代にも残る大きな理由の一つが、その挿絵にあることに依存はないのではないか。〝雪岱調〟という言葉で表現されるその画風には、時代が変わっても風化しない強さと美意識がともなっている。〉

 雪岱は泉鏡花に信頼され、多くの装幀を任された。鏡花の文学仲間、久保田万太郎や里見弴らの装幀も手がけた。挿絵も鏡花の縁で、長田幹彦「春の波」(「をとめ」創刊号、千草館、大正5年・1916年)が最初(現在確認できるもの)。昭和初期、新聞連載の時代小説が流行し、邦枝完二、長谷川伸、吉川英治らの作品に描いた。

挿絵は新聞連載他、雑誌も大衆誌から文芸誌、女性誌と、膨大な量。編者は10数年調査・研究を続けた。本書は、初期から「雪岱調」確立期、成熟期まで時代順に構成する。

 表紙カバーの絵は、鈴木彦次郎「両国梶之助」挿絵より。幕末から明治の人気力士をモデルにした小説、「都新聞」(昭和1314年・193839年)連載。鈴木は川端康成ら新感覚派のグループ、後に大衆小説に転じた。

(平野)江戸情緒、凛とした女性、殺陣、雨、川の流れ……、静と動を白黒の線で表現。
 前回紹介の『水の匂いがするようだ』について、書名の説明を忘れている。『黒い雨』も水、魚が重要なモチーフ。8.15、玉音放送が始まるが、主人公重松は用水溝の綺麗な水を遡ってくる鰻の稚魚の群れを見つける。「やあ、のぼるのぼる。水の匂いがするようだ。」