■ 木内昇 『化物蠟燭』 朝日新聞出版 1600円+税
表題作他、江戸を舞台にした、ちょっと怖い話、妖しい話、切ない話7篇。「小説現代」「小説トリッパー」に掲載した作品。
悲しく辛いことだけれど、人はいつかこの世を去らなければならない。病だったり、事故だったり、テロがあるし、「誰でもよかった」もある。自分の意思ではどうにもできない。恋しい人、幼い子を思いやって、成仏できない者がいる。一方、あの世の者とこの世を繋げる者がいる。
ほんとうに怖いのは生きている人間の欲、嫉妬、怒り。
「化物蠟燭」の主人公は影絵師・富右治(とうじ)。菓子屋の番頭から店の後継問題で奇妙な依頼を受ける。大旦那は腕の良い職人に店を継がせ、実子を独立させていた。番頭は、実子を戻したい、職人を影絵で脅かせて追い出してほしい、と言う。富右治は影絵師のプライドで断るが、挑発に乗って請けあってしまう。富右治は怖がり、影絵で怪談はしない。仕掛けに困り、「化物蠟燭」(蠟燭に妖怪や幽霊の切り抜き影絵を取り付けたもの)の目吉に相談。
ほぼ毎晩職人を脅かしていた。ある夜、編み笠姿の老人が訪ねて来た。「多賀谷」と名乗って、苦言。化物蠟燭を使う前によく考えよ、と。
〈「……影絵というのは、人を楽しませ、浮き世を忘れさせるのに用いる芸です。使い方を過つと、芸というのは次第次第に下火になって、いずれ滅びてしまいます」(中略)「あなたは当代一の影絵師だ。それだけの腕を持つものは、よくよく心得て技を使わなけりゃあなりません」〉
翌日実子の店に行くと客の行列ができていた。後継問題は大旦那の算段、実子と職人の技量・商才を見極めていた。両方の店が繁盛した。番頭はそこまで見通していなかった。
職人は富右治の仕業を知っていた。幽霊から御伽草紙のような話になって、楽しみにしていた、と打ち明けられる。さらに、いつも富右治の隣に仲間がいて、その人が言うには、気を休めるよう番頭に頼まれた、伝統は常に新しいことをしていかないと繋がらない、富右治も技を継ぐ者だ、と。もちろん富右治には何が何やらわからない。菓子商の騒動はそれぞれ良かれと思っての考え・行動で、一件落着。
〈……一番みすぼらしいのは、ものごとを一方からしか見ずに金に釣られて動いた俺だ――。〉
職人に、誰が悪いのではない、影絵が同じ形でも向きによって見え方が違ってくるようなもの、と諭される。
目吉が、「多賀谷環中仙(かんちゅうせん)」(享保年間、実在の人物)という影絵の基礎を作った人物に思い当たる。(平野)
7.20は私66歳の誕生日。孫が電話(家人のライン)で「ハッピーバースデイ」を2回、その他レパートリー3曲歌ってくれた。ヂヂ、うれしい。