11.18 兵庫県知事選挙結果は県民の審判だけど、ネットの影響らしい。なんか気色悪い。
11.19 早朝のテレビニュース、谷川俊太郎逝去の報。
「二十億光年の孤独」
人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間をほしがったりする
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或はネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間をほしがったりする
それはまったくたしかなことだ
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨んでゆく
それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした
11.20 谷川俊太郎追悼の新聞記事、投稿など続々。
谷川「自己紹介」より。
私は背の低い禿頭の老人です
もう半世紀以上のあいだ
名詞や動詞や助詞や形容詞や疑問符など
言葉どもに揉まれながら暮らしてきましたから
どちらかと言うと無言を好みます (後略)
11.23 午前図書館。古本愛好家(下記の本)に刺激されたわけではないが、モダニズム出版社「第一書房」の本を借りる。『佐藤春夫詩集』(大正15年)、署名入り。
買い物に出たら、旧知の人たちに連続して遭遇。元町の紳士服の元店主と画家。しばし歩き話、立ち話。
■ 高橋輝次 『戦前モダニズム出版社探検 金星堂、厚生閣書店、椎の木社ほか』 論創社 3000円+税
フリー編集者で古本の強者。古本探索の成果をまとめる。著者のテーマの一つ、著名作家・文学者で元編集者という人たちの足跡を辿る。本書ではドイツ文学者の種村季弘のエピソードを紹介する。
本書のメインは書名のとおり大正末期から昭和はじめの西欧の文学・芸術に影響を受けたモダニズム出版。作品と作家たち探索に加え、出版社と経営者、編集者たちに注目する。
金星堂は1918(大正7)年に福岡益夫が設立。社名は田山花袋の「宵の明星である金星」という案から。川端康成、横光利一らの同人誌「文藝時代」を支援。26年に川端の『雪国』を出版。戦後は語学出版に転換し、現在も継続。
厚生閣書店は1922(大正11)年岡本正一が創業。キリスト教書、教育書中心だったが、昭和に入って安西冬衛、西脇順三郎らの詩集を出版。安西『軍艦茉莉』は「てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた」の詩で知られる。現在は恒星社厚生閣として天文や水産の専門書を出版。
椎の木社は大正末から月刊誌「椎の木」を発行。三好達治、室生犀星、萩原朔太郎、西脇順三郎らが寄稿、詩集を出版した。
三社にはそれぞれモダニズム出版を推し進めた編集者たちがいた。伊藤整、春山行夫、百田宗治……、彼らも詩人・作家だった。
高橋の記述はいつも通り探索の過程を記す。とりあえず判明したことを書き終える。しばらく経つと新たな資料を発掘して、追記が1、2、3と続き、さらに付記、後日談が重なる。ぼやき、時にボケてそこにツッコミを入れる。高橋自身が文章スタイルをこう述べる。
〈(前略、古本好きの元編集者)そんな私の書き方は、出版社の社史や研究者による社主の評伝、あるいは出版史の学術書のように、時系列に沿って体系的にまとめたものではなく、テーマに沿った探求の成果を日録風に順々に綴ったスタイルであり、話があちこちに飛び、時には古本が古本を呼んで脱線もしている。相変わらず追記や付記も多い。ただ、その探索の過程(ルビ・プロセス)は逐一、正直に具体的に書いているので、臨場感に富んだものになっていると思うのだが、如何だろうか(つまり、著者の楽屋裏をのぞきみる面白さはあるかもしれないと……)。〉
不思議なことに資料が次々手に入る。探索の手を緩めないからだろう。まさに、古本が古本を呼ぶ、という状態。私は密かに「タカハシがテルツグする」と名づけている。文章も「タカハシがテルツグする」。
(平野)