2016年5月5日木曜日

走れ! 移動図書館


 鎌倉幸子 『走れ! 移動図書館 本でよりそう復興支援』 
ちくまプリマー新書 20141月刊 2015.102刷 840円+税

 鎌倉は1973年青森県生まれ。1999年国際協力NGO公益社団法人シャンティ国際ボランティア協会入職、カンボジアで図書館事業や出版に従事し、2007年帰国。11年東日本大震災後、岩手県で本を届ける移動図書館プロジェクトを立ち上げた。
 シャンティの活動は教育・文化支援が中心。食糧支援・物資配布を優先するなかで、避難所の人たちから「本を読みたい」という声が聞こえてくる。鎌倉は「まだ図書館ではない」「本ではない」と気持ちを抑えていた。
 3月末に気仙沼図書館が館内閲覧のみで再開した。図書館の山口さんに会う。

《「こんな時だから、今、出会う本が子どもたちの一生の支えになる」(中略)
「食べ物は食べたらなくなります。でも読んだ本の記憶は残ります。だから図書館員として本を届けていきたいのです」と。電気のついていない薄暗く静寂に満ちた図書館に、山口さんの静かな、でも使命を帯びた声が響きました。その言葉を聞いた時、背筋がぞくっとしました。「まだ本ではない」と思っていた自分は、どれだけ本のチカラを知っていたのだろう。生きるために衣食住が必要なのは当たり前ですが、人々が困難な生活を余儀なくされた時にこそ持つ、本や図書館の存在価値を見出していなかったのではないかと自分を恥じました。》

 鎌倉は各地の図書館や書店の被害状況を調査し、自治体担当者と話し合い、6月遠野市に事務所を開設、7月から移動図書館を開始した。当初用意した本は、企業・団体からの寄贈と東京で購入した2万冊。「現地であるのであれば、現地で調達する」というのが基本。本の寄贈は原則断わり、募金をお願いして、リクエスト本は地元の書店で購入する。地元支援だ。
 鎌倉は、「図書館活動はイベントではありません」と言う。図書館は決まった日時に開館し、図書館と利用者双方が約束を守る。その繰り返しがあって、双方に「安心感・信頼感が生まれて」いく。
 シャンティは図書館を作る4要素を、(1)図書スペース(2)本(3)図書館員(4)利用者、と考える。鎌倉は、いちばん大切なものは図書館員=「人」、本や車は「人を介して活きるもの」と言う。
 図書館は読書のための施設という以外に、集いの場所、情報センター、記録の保存などの機能がある。

……忘れてはいけないのは「それは誰のためか」という問いかけです。(中略)
「誰のためか」の基礎にあるのが「なぜ図書館が必要なのか」という問いかけです。なぜ人は読書が必要なのか、情報が必要なのか、記録の保存が必要なのか。この問いに向き合う毎日です。》

 読書は教養や楽しみのためだけではなく、生活に必要な情報を得る目的もある。被災者それぞれの年代や生活の進行によって、必要な本=実用書が変わってくる。また、避難生活者には本を借りるために来ることが外に出るきっかけになり、ここで他の人と触れ合うことができる。子どもたちの居場所になる。人のために本を選ぶ人もいる。
 軽トラックを改造した移動図書館車3台が巡回。11年は13ヵ所の仮設団地、1310月には26ヵ所、本書出版時には約40ヵ所を回っている。
《本はチカラがある。》
 移動図書館で復興支援をする人たちはこの言葉を信じて活動している。
(平野)