■ 関川夏央 『人間晩年図巻 1990-94年』 1800円+税
『(同) 1995-99年』 1900円+税 岩波書店
山田風太郎は『人間臨終図巻』(徳間書店、上下2巻、1986~87年)で、歴史上の人物の「臨終」の様子を資料・文献から読み取り、医師として診断した。亡くなった年齢別に900人余りの人の死を描いた。
関川は90年代を「静かな劇的変化の時代」ととらえる。本書登場人物たちはその時代に「晩年」を生きて死んだ人たち。彼らの「晩年」を検証することで「現代史」を描く。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件。
《……天災による大都市崩壊、悪意の個人の影響下に青年たちが実行した大規模テロ、それらは日本社会の変質をしめす事象・事件だったといまならいえるが、当時は気づかなかった。まだ「戦後」という時代の延長だと考えていた。それは甘えであった。》
高齢化と人口減少。
《……直視するのが怖いから考えないことにした。》
インターネットの出現と普及。
《「情報」は事実上タダになった。「文学」も「情報」だと考えれば、それにお金を払う人がまれになるのは自然だ。「文学」の意味と価値は不滅でも、二百余年前に世界に先駆けて成立・隆盛した日本の出版産業は急速に退潮へ向かうのだが、やっぱり怖いから気づかないふりをしてやりすごし、いまになって自失している。》
政界を見てみる。田中角栄元首相について。彼は27歳で衆議院議員に当選し、30代で大臣、72年54歳で首相になり、日中国交正常化を果たした。「コンピューター付きブルドーザー」「今太閤」と呼ばれ国民的人気を得たが、常に金の問題がつきまとった。任期中にオイルショックがあり、大規模公共工事で地価上昇。74年金脈問題で首相辞任。ロッキード事件で収賄罪に問われたが、「キング・メーカー」として君臨した。85年後継者が分派し、田中は病に倒れる。田中は裁判で無罪を勝ち取り復活するつもりでいたが、成らなかった。娘が父の病と日常の情報を管理し、後継者たちを許さなかった。87年、彼らが政権につき、田中の影響力は消滅した。世界も日本も第二次大戦後の体制に変化が起きる。89年中国天安門事件、91年ソ連崩壊、93年自民党下野。娘が立候補し当選するが、93年末、田中は亡くなる。娘は父と同じく大衆的人気があり、大臣になるも失脚。娘は父の「恨み」を受け継いだが、政治家としての「器」は欠けた。
(平野)
古書店1003でいただいた。■ 『#モトコー』
企画・制作 〈神戸学院大学現代社会学部 前田ゼミ〉4名 A5判26ページ
JR元町駅西から神戸駅に続く線路高架下商店街、通称「モトコー」の魅力を伝える冊子。JRの耐震補強工事が予定されていて、商店街の存続が危ぶまれている。