■ 門井慶喜 『定価のない本』 東京創元社 1700円+税
古書業界を舞台にしたミステリ。稀覯書独占欲か、宗教団体の秘密か?
本書は戦後まもない神田神保町が舞台。古書店主人が蔵書に圧しつぶされて死亡、続いて妻が自死。二人の死はほんとうに事故・自殺なのか? 先輩古書店主が真相を探っていく。殺人? そうなら犯人は同業者、それとも客? 黒幕がいるのか?
戦後の経済生活混乱を背景に、巨大な権力が民族の文化を徹底的に破壊しようとする謀略。戦争はまだ終わっていなかった。主人公も敵に絡み取られる。でもね、……。
古書に定価はないが、主人公が商っているのは古書のなかでも「古典籍」と呼ばれるもの。「古活字版」や写本、明治維新以前の和装本である。「文化財」という方がいいかもしれない。
戦前の蒐集第一人者・徳富蘇峰、人気作家・太宰治が登場、主人公に協力する。神保町の店主たちも立ち上がるが、それだけでは力不足。全国の古本屋も出馬。
食糧困窮の時代、主人公は子どもに「なんで本なんか売ってんの?」と問い詰められる。「食いもの売るほうがよっぽど儲かるし、みんな飢え死にしなくてすむじゃないか」と。主人公はしばらく考えて、子どもの頭を乱暴になでながら、
〈「本にも栄養があるのさ。頭の栄養がね」/ありきたりのことしか言えなかった。〉
(平野)
本屋の大先輩の話。戦地から戻り、焼け跡の元の場所で戸板の上に古本を並べて商売再開。三宮の闇市に行くと、英語の辞書をバラして紙巻タバコにして売っていた。愕然とした。本は煙になった。10.1 消費税アップ。新聞もテレビも、軽減なんたら還元かんたらと騒がしい。私が買い物を任されているのは食料品だけだから、関係ないといえば関係ない。
本日、元町通4丁目こうべまちづくり会館に「神戸元町みなと古書店」オープン、7店舗が参加。めでたい、うれしい。
関係者が教えてくれた。午前中にセレモニーがあり、古書店の代表(サンコウさん)が挨拶。6年前の「9月30日海文堂書店閉店」に触れてくださったそうだ。私、その場にいたらきっと感涙ボロボロだったでしょう。古本屋さんたちが地道にここで古本市を開催してこられた成果です。海文堂なんて何の役にも立っていません。
さて、同店は税別表示、10%初支払いいたしました。探していた『齋藤史歌文集』(講談社文芸文庫、2001年)を見つける。たいへんうれしい。