2024年7月9日火曜日

惣十郎浮世始末

7.6 図書館で新聞閲覧。結局読みたい連載記事は発見できず。情報記載のあった本の版元に問い合わせメール。でもね、貴重な記事や広告を発見したから、良し。

 家人は幼なじみと恒例のランチ、梅田。ついでに「BIG ISSUE480482号を購入してもらう。

7.7 「朝日歌壇」より。

〈授業中こそこそと読む小説に「孤鼠々々(こそこそ)」とありて思わず感嘆 (壱岐市)内山圭三〉

〈栞紐誰(た)が挟みしやひとすじの凹(くぼ)みかすかに残りてしずか (箕面市)大野美恵子〉

7.8 暑さの中の仕事。コロナ禍以来マスク装着。多少息苦しくなるけれど、ホコリ・虫除け対策。水分補給忘れず、弁当ガッツリ。午後の作業が一段落したら着替える。

7.9 昔の新聞連載について出版社から連絡いただく。年号の記載ミスらしい。正しい年月日を教えてくださった。感謝。

 

 木内昇 『惣十郎浮世始末』 中央公論新社 2350円+税



202210月から2311月まで「読売新聞」に連載した時代小説、捕物帳。江戸時代末期、異国船出没、天保の改革、蛮社の獄、疫病と世の中は落ち着かない。激動する社会で立身の欲が庶民の小さな願いを踏みにじる。

主人公・服部惣十郎は北町奉行所定町廻同心。手柄を立てるより、犯罪の芽を摘み取るために町廻りに気を配る。そのことで同僚と諍いもある。必殺技や剣は使わない。欠点は字が下手、文書作業苦手。世情には通じているが、女心はさっぱり分からず。幅広い情報網、人脈を構築し、捜査の過程でさらに広げる。

登場人物は、医は仁術の蘭方医梨春(りしゅん、師の医学書出版を目指す)、版元須原屋夫婦、腕利きの岡っ引き完治(元掏摸)に棒手振り商いの与助、早桶屋才太郎。家族は母、馬鹿正直の小者佐吉、料理上手の下女お雅(惣十郎の母に尽くし、彼に思いを寄せる)、それに亡妻の父で尊敬する先輩同心。

事件は薬種問屋の火付けと二つの焼死体。番頭と、もう一つは店主のようだが、別人と判明。店主は捕まり、蘭方・漢方医の姿がちらつくのだが、謎のまま。別のややこしい事件が次々起こるうちに一年経つ。謎の医者の正体、種痘の開発と人体実験が浮かび上がる。亡妻の死も関連。主犯の医者を捕らえるが、牢内で死ぬ。これ以上はネタバレになる。

事件が解決し、政治では老中水野忠邦が失脚。惣十郎は完治を労う。完治は、老中が代わっただけで世の中は変わるから自分は世の理(ことわり)をいちいち真に受けない、と言う。勘で動く、反りの合わない鞘に収まることはできない、と。惣十郎は完治を、お前は抜き身だ、鞘には収まらない、と笑う。

「これからまた、新たな治政がなされる。正しい軸がねぇこの浮世をどう生きるかってのは、いつの世も難儀な仕事だな」

 惣十郎は確かな推理で罪人を捕らえ事件を落着させることに努めるが、しくじることもある。生きて、失敗して恥をかいて、生きて、を繰り返す覚悟がある。完治が、お雅の出汁は季節が違ってもいつも同じ味、と指摘。完治には完治の、お雅にはお雅の「理」がある。馬鹿正直の佐吉にも仕事の目当てはちゃんとある。曰く「明日の飯を食うため」。

(平野)謎の医者=主犯は周防大島出身で名は平埜(ひらの)。みずのわ社主と私の悪玉組み合わせ? 妙な符合。