■ 森まゆみ 『「谷根千」地図で時間旅行』
晶文社 1800円+税
著者は雑誌「谷根千」編集者(1984年創刊、2009年終刊、終わって6年も経つのか)、地域の歴史を掘り起こし、記録してきた。本書では、江戸時代からの地図を集めて、「自分の町」という地域に限って定点観測して、歴史を読み解く。
《ここでは範囲をなるべくしぼり、私が自分の町と感じ、そこで四半世紀、谷中、根津、千駄木(以下通称「谷根千」)に限る。広くともわがルーツの地である日本橋、母が養女に来て育った浅草、谷根千周辺の上野、上野桜木、日暮里、田端、弥生くらいしか言及しない。(中略)
私自身、三〇年前に地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を始めてから、江戸の痕跡がいかに多く町に残っているかに驚かされた。寺社仏閣はおどろくほど動いていない。坂や橋の名前、交差点や町会の名前にもその痕跡がある。遺物だけでなく、旧武家屋敷のあった台地上には、現代の武士ともいえる、国家公務員が公務員住宅に、あるいは大企業の会社員が実家を継承したりして住み、谷沿いにはいまも昔も商人や職人が多く働いている。構造は引き継がれている。その上にはもちろん、明治、大正、昭和の改変が降りつもっているのではあるが。(中略)
東京は、二六〇年の長い江戸の平和のあとの戊辰戦争、大正の震災、昭和の戦災と何度かの天災人災、そして明治時代の市区改正から東京オリンピックにいたる上からの人為的改造で大きく姿を変えた。もちろん江戸は大火が多かったので何度も焼けている。「谷根千」の町は幸いにも震災、戦災に比較的残り、一九六四年の東京オリンピックとも関係なかった。八〇年代、バブル時の乱開発はあったものの、大規模な改変にはさらされなかった土地といえよう。(後略)》
古地図だけではなく、古老たちが記憶で描いた地図、聞きとりで再現した地図も収録。
(平野)
お江戸で買った本。私は「谷根千」に全く土地勘なく(東京全体そうだが)、2度ウロウロしただけの場所。ただ、家人の母方の墓が谷中墓地にあり、彼女は機会があるたびに参っている。
■ 『海の本屋のはなし』あれこれ
8月23日 『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』出版記念トークイベントJazz喫茶M&M
主催 古書うみねこ堂書林
出演 小林良宣 福岡宏泰 平野義昌
定員30名満員。
福岡店長が、閉店して2年になろうというのに、いまだに多くの人が来てくださる、ありがたいこと、とお礼を言いました。皆さんが海文堂を惜しんでくださっていること、懐かしんでくださること、ほんとうに感謝しています。
私たちはそろそろ新しい前向きなことをしなければなりません。「計画」はあります。なるべく早く発表できればと思います。
とりあえず、ミニコミ『ほんまに』第17号に取りかかります。特集「追悼 陳舜臣」です。