2016年12月1日木曜日

わたしたちの街


 わたしたちの街

 1984年、安水稔和は詩友君本昌久とともに『神戸の詩人たち 戦後詩集成』(神戸新聞出版センター)をまとめた。私は本書ではじめて安水を知った。
 

「わたしたちの街」(1974年発表)

《わたしたちの街では、道を歩くということは、坂をのぼること・坂をくだることを意味します。》

 略、歩いていると、いつのまにか登ったり下ったり、街を見下ろしていたり見上げていたり。うっかりすると街も空も、自分の体も傾き、海まで転げ落ちそうになる。だから、わたしたちはいろんなものを手に持ち、ポケットに入れる。物騒なものもある。時には「心に鉛」も。

《なにしろ、油断ならぬ街です。さて、いこか、もどろか、どちらへ曲がろか。》

 本書には48詩人、256篇が収められている。モダニズムの旗手、超現実主義者、民衆詩人、戦争中の神戸詩人事件に連座した人たちもいる
 神戸には詩人が多いのか? 
 安水はお国自慢的風土論を述べたりしない。
「たまたま人間がいる」と答える。芸術家も多い。
 明るくおしゃれで異国情緒があって……という〈神戸らしさ〉は一面でしかない。

《……〈ひとつの神戸〉があるのではなく〈いくつもの神戸〉があるのであって、〈ひとつの〉ではなくて〈いくつもの〉にこそ神戸の未来の可能性があるのではないか。不況・貧困・差別、水害・戦災・震災、なくならない負の連鎖にもかかわらずわが街神戸が絶えることなく生の鼓動を続けるのは〈いくつもの神戸〉だからである。》(『神戸 わが街』 神戸新聞総合出版センター)

(平野)