2016年12月31日土曜日

俳句世がたり


 小沢信男 『俳句世がたり』 岩波新書 820円+税

『月刊みすず』(みすず書房)の表2連載コラム「賛々語々」7年分。

《俳句、川柳、雑俳の類は、まず眼前の事象をくっきり捉える。それから空間的にも時間的にも、案外なひろがりをみせるのでした。しかも五七五や七七の音節に乗って、こころよく。
 芭蕉このかたこんにちまであまたの先達各位の句集などから、おりおりにこころ惹かれる句々を手控えておこう。そうして日々の思案や感慨の、引きだし役やまとめ役になっていただくのはどうだろう。(中略)
 月々の季節の移ろいにつれて、または継起する天下の出来事に目もみはりつつ、あちらの先達やこちらの知友の名吟佳吟と、いささか勝手ながらおつきあいいただいて三々五々、連れ立って歩いていこう。そこで題して「賛々語々」。(後略)》

 東日本大震災の翌月号、江戸時代の『俳諧武玉川』から〈先見た物の帰る引汐〉の句を引く。掘割に浮かぶ塵芥さまざまなものが潮の干満で行き戻りする光景。江戸の町は大都会ながら、人びとは自然にあわせて暮らし、且つ掘割や用水路など社会資本を整えていた。現代、科学の進歩は一方で自然環境を破壊。災害は大型化し、原発崩壊は人災。
 江戸の人びとは地震のとき、「世直し世直し」と唱えた。

《このさい、その江戸っ子の口癖を、見直したい。茫然自失、たちすくむ津波の跡に、それでも片づけにかかる人々がいる。救援にかけつけるボランティアのみなさまがいる。水がない、米がない、電気がつかない、トイレがない。ないないづくしからたちあがる一挙手一投足こそが、そのまま世直しの歩みではないですか。》

 戦後復興では江戸の掘割は埋め立てられ、高速道路になってしまった。

《天地自然と呼吸をあわせる街造り、国造り。そのはるかな道のりへの歩みが、鎮魂の祈りとなりますように。

 津浪の町の揃ふ命日  武玉川》

 小沢は1927年東京新橋生まれ。53年新日本文学会入会。詩、評論小説、俳句など多彩な執筆活動。『東京骨灰紀行』(筑摩書房)、『通り過ぎた人々』(みすず書房)、『捨身なひと』(晶文社)など。
(平野)
 前回、「旅とはもともと楽しいものではなく、つらい苦しいものだった」という詩人のことばを紹介した。小沢は本書で芭蕉の旅を、「行き倒れも覚悟の乞食旅」と書いている。

 

  穏やかな楠公の杜除夜まいり  よーまる

皆様、良き新年を。