■ 京極夏彦 『書楼弔堂 炎昼』 集英社 1900円+税
〈明治三十年代初頭。古今東西の書物が集う書舗(ほんや)に導かれる、一人の若き女性。〉
今回の狂言回しはこの女性・塔子。薩摩士族の官僚の娘、読書も許されず、頭の堅い祖父に叱られ怒鳴られる日々。高等教育を受けた塔子は窮屈で仕方がない。夏の正午近く、散歩に出た塔子は二人の紳士に出会う。二人は人伝てに聞いた書舗を探していた。塔子も知らない。燈台のような建物というヒントで、塔子は思い当たった。お寺に行く一本道の途中に、多分、ある。
三階建て以上の高さ、道側に窓なし、両脇は林、後ろは山。奥行があり、道からは燈台のように見えるが、別の方から見ればまた違うかもしれない。京雛のような少年が応待。店の名は書楼弔堂。
《「……主人の申しますには、当店は書物の霊廟、主人は無縁仏の縁者を見付け、縁付けて供養するために本を売っております。ですから、この裡(なか)には凡百の浮かばれぬ書物が眠っているのでございます。(後略)」》
店内は吹き抜けの壁面全て本、窓は天井の明かり取りのみ。
《……内部はかなり広く、台のようなものも幾つか置かれていて、その上にも本が並べられています。一定の間隔で橙色の光を発しているのは蝋燭でした。燭台が立てられているのです。》
主人は、白い着流し、年齢不詳、博覧強記、謎だらけ。回を追って人物像が少しずつわかってくる。
塔子は、二人を案内する途上の会話、弔堂での彼らと店主のやりとりを聴いて、理解できず「悔しい」と告白する。本を読みたいと思う。だが、店主が勧めようとすると、待ってくれと断わる。彼らの会話で気になることばがあった。
《「わたくしはまだ何もご本を読んでおりませんのよ。一冊も読まないうちからわたくしの一冊を勧められてしまったのでは敵いませんわ。慥か、人生にご本は一冊あれば良いというようなお話でしたでしょう」》
二人の紳士は、田山録彌(尾崎紅葉の弟子)と松岡國男(帝大生、詩人。塔子も名前は知っていた)、後に著名な作家、学者になる。他に、文化史・政治史に名が残る人たち、書物が登場する。
(平野)高橋書店手帳TVCM、柳家喬太郎・春風亭昇太両師匠のバカ旦那ぶりがおかしい、似合う。高橋書店のWEBサイトを見たら何パターンもある。喬太郎新作落語も見られる。
年明けて、何年ぶりかで自主的に年賀状を書いた。「自主的」というのは、毎年戴いた方に返信しているだけだから。