■ 髙田郁 『あきない世傳 金と銀(三)奔流篇』
角川春樹事務所ハルキ文庫 580円+税
主人公・幸は武庫郡津門村(むこぐんつとむら、現在の西宮市)の学者の娘。父・兄が亡くなり、母と妹を残して大坂天満の呉服商「五鈴屋」に奉公。女衆(おなごし、店には出ず奥の仕事を担当する)ながら、番頭に才能を認められ四代目店主の後添えに迎えられた。その夫が事故死し、幸は17歳で寡婦になる。夫の弟が幸と結婚し、五代目を継ぐ。
彼は、商才があり、大きな目標もあるのだが、人情や商道徳に欠けるところがある。それでも幸の知恵や人間味に感化されて、江戸進出を目指して店を改革し、新しい仕入先・商品を開拓する。
しかし、彼はその仕入先に酷い仕打ちをしてしまう。またもや幸に大きな試練が立ちはだかる。
いつものように、幸の身の上に福と禍が交錯する。私は作者のサディスト体質に慣れている。今回驚いたのは、作者がついに〈濡れ場〉を描いたこと。作者はこれまで(私のボケ記憶だが)純愛しか描いていないはず。
幸は四代目に嫁いだものの、まだ少女で、彼は手を出さなかった。五代目と一緒になって、名実とも夫婦になる。
(平野)
作中、四代目・五代目の祖母「お家(え)さん」が幸の着物を「こぉと(質素で上品)で、粋で」とほめる。久々にこの表現にあった。ばあちゃん(明治35年生まれ)が使っていた。