■ 『〆切本2』 左右社 2300円+税
原稿を依頼された物書き諸氏たち――作家、詩人、漫画家、学者、芸術家――の「〆切」との闘いの記録。言い訳、屁理屈、泣き落し、脅し、居直り、仮病、逃亡、失踪……。苛立って資料を捨てる人。突然妻出産をでっち上げる人。
編集者も負けていない。催促督促、居座り、泊まり込み、出版社やホテルにカンズメ(軟禁だが、書き手にとっては監禁)も辞さない。それでも書かない・書けない作家には読者向け詫び状を書かせ、雑誌にその直筆原稿を掲載した。
きちんと〆切を守る書き手がいる。「締切りのお蔭で仕事をしている」と語る人。余命いくばくもない病の床で書き上げた人。臨終迫る夫のそばでペンを走らせた人。
週刊誌休刊で36年間続けた連載を終える文章は執筆者の美学そのもの。「悲しい事だ。然し、これも愛別離苦の一つなのだろう。耐えねばならない」と同社の他出版物での継続を断る。
書き手はより良い原稿を書くために「〆切」を伸ばしたい。サボリではない(サボリかもしれない)。編集者は商業出版・同人雜誌に関わらず、締め切らなければ出版できない。まさに闘いである。
『同1』を紹介したとき、遅筆の代表として、井上ひさしと向田邦子を挙げたが、今回もご両所登場。井上の文章はファックスで数時間ごとに送った詫び状。向田は、原稿用紙を見ると眠くなる、というエッセイ。不謹慎ながら、読んで笑う。ここまでくると「芸」。
(平野)