■ 山本周五郎 『戦国武士道物語 死處』 講談社文庫 560円+税
戦争中、未発表のまま出版社に眠っていた原稿「死處」他、戦国武将に仕えた家臣たちを描く8篇。いずれも戦前の作品。手柄を誇示せず、主君のため命を捧げる覚悟を持った武士たち。
時局柄、滅私奉公、自己犠牲を美しく描かなければならなかったろう。周五郎は無数の無名武士たちの死を弔い、目立たないが重要な役目を労う。なぜ死ななければならなかったか、困難な役目を選んだのか、ひとりひとりの行動に深く意味を探る。
〈「そうだ、……命は惜しい」(中略)「いったんの死はむずかしくはない、たいせつなのは命を惜しむことだ。(後略)」〉
「もののふは名こそ惜しけれ」と言うが、名には虚名もある。息子は、父が人の批判を恐れず命を捨てる前に名を捨てた、と知る。家康敗走に吉信は駆けつけ、身代わりになって討ち死にする。
確かに最後は死ぬ。けれども、この時代に周五郎は「命を惜しむ」と書いた。
(平野)
しろやぎ(喜久屋書店阿倍野店の市岡陽子)さんがラジオ出演。
8月1日(水)20:00~20:30FMOH!85.1《MUKOJOラジオ》
DJさんは神戸出身作家の姉上。