2019年3月2日土曜日

書物の破壊の世界史

 フェルナンド・バエス 八重樫克彦+八重樫由貴子=訳
『書物の破壊の世界史 シュメールの粘土板からデジタル時代まで』 
紀伊國屋書店 3500円+税

 現在も書物は世界中で破壊され続けている。戦争、災害、権力者、宗教、思想……、さまざまな力によって。

 バエスはベネズエラ出身の図書館学者・作家・反検閲活動家。初版は04年、13年増補改訂(スペイン)。

〈二〇〇三年五月バグダードに現地入りした際、私は文化の破壊の新たな形に直面した。それは見て見ぬふりをするという間接的な加担でなされていた。〉 

 米軍は文化施設を破壊しなかったが、守りもしなかった。その「無関心」によって犯罪グループの略奪が始まった。博物館の所蔵品強奪、展示室破壊、図書館・古文書館焼失。価値のある蔵書・古文書は盗まれ、残りは燃やされた。遺跡の考古学資料も盗掘され、破壊された。大学図書館も例外ではなかった。学生が訊いてきた。「どうして人間はこんなにも多くの本を破壊するのか」。バエスは答えられなかった。
 バエスは幼い頃初めて見た書物破壊を思い出す。親戚が勤めていた町立図書館で本に囲まれて、読書の喜び・価値を見出していた。川の氾濫で小さな図書館は破壊され、蔵書は全滅した。幼児体験だけではない。高校の修了式で同級生が教科書を燃やし、火を消そうとして皆に嘲笑された。19歳、通っていた古書店が全焼した。1999年ボスニア・ヘルツェゴヴィナで廃墟になった国立図書館を調査。同年ベネズエラの図書館が地すべりで崩壊。2000年コロンビア内戦で破壊された図書館を調査。
 バエスは書物の破壊をテーマに執筆準備をする
2001年、生前会ったことはない祖父の遺品=40冊の本が送られて来た。その中に本を破壊する諸々の要因について解説する本があった。父に遺産のことをすると、祖父が歴史好きだったこと、アレクサンドリア図書館の話で盛り上がったことなどを語ってくれた。

〈帰り際、父に力強く抱擁されたとき、私は自分の研究の方向性が決まったと確信した。〉

 表紙の絵は、ペドロ・ベルゲーデ『聖ドミニクスとアルビジョ派』。焚書を免れた本が宙に浮いている。

(平野)索引・註含め740ページ、ヂヂ、いつ読むんや?