■ 『神戸市立圖書館100年史』 神戸市立中央図書館
2012年刊 非売品
伊藤博文銅像設立と同じ年、1911(明治44)年3月、神戸市議会で図書館設立議案が可決。地元経済界から寄付金があり、篤志家から蔵書が寄贈された。11月、相生町(神戸駅の東)旧市庁舎を改装して市立図書館が開館。2階建て延床面積195坪。蔵書9000冊だが、整理・準備できたのは3400冊あまり。図書のカードで読みたい本を調べ、閲覧表に記入して、書庫から出してもらう。
当初、閲覧は無料だったが、翌年4月から有料になる。普通閲覧料1回2銭、特別閲覧料1回4銭、普通回数券15回分15銭、特別回数券15回分30銭(東京市電運賃大人4銭)。普通閲覧室、婦人席の他、特別閲覧室があり図書館功労者や館長が許可した人は貴重図書や冊数など優遇された。
15(大正4)年4月、館外貸出開始。普通貸出1回3冊まで20銭(延滞料あり)、優待者は無料。
優待者とは、功労者及び館長が認めた者、市区名誉職員、官公庁銀行会社等の要職者、官公立学校校長、直接国税10円以上納税者、以上の条件該当の保証人がある者。1920(大正10)年10月、大倉山に新図書館移転。延建坪607坪、本館1階に公開図書室、特別閲覧室、婦人閲覧室、館長室、事務室など、2階は大閲覧室、屋上に庭園、別に書庫5階建て。蔵書29000冊超。
当時、菊田一夫(劇作家)は元町の美術商で奉公していた。店主の納税証明書を利用して本を借りた。
〈神戸市のうちでは住宅街として、粒がそろっている、といわれる中山手通りを、湊川の方向にむかうと、その右側の小高い丘に大倉山公園がある。その中腹に市立大倉山図書館がある。そこでは誰か保証人を立て、その保証人の納税領収書を示せば、館外貸出もしてくれる。和吉は珍物屋商会の主人に頼んで、納税領収書を貸してもらい、生まれてはじめての図書館通いをやった。〉(菊田の自伝小説『がしんたれ』角川文庫、1961年)
菊田が図書館の前庭から見た100年前の神戸風景。
〈そこは神戸港を一目に見おろす丘の中腹でその白いベンチに腰をおろして見ると、遥かな兵庫地区の街並を越えて右手の海際には、川崎造船所の巨大なクレーンが工場地帯の煙にかすみ、そのずっと左手の海には、幾条かの突堤が欧州やアメリカにいく旅客船の折目正しい姿を抱いて浮かんでいる。)(同上)
閲覧料・貸出料が廃止されるのは51(昭和26)年4月。 81(昭和56)年4月、現在の中央図書館開館。今は建物に遮られて、3階の閲覧室からも港は見えない。
(平野)『100年史』は貸出可能。『がしんたれ』は館内閲覧のみ。
《ほんまにWEB》「海文堂のお道具箱」「奥のおじさん」更新、最終回。リニューアルします。
《ほんまにWEB》「海文堂のお道具箱」「奥のおじさん」更新、最終回。リニューアルします。