■ 瀬戸内寂聴 『余白の春 金子文子』 岩波現代文庫
1160円+税
初出、『婦人公論』(中央公論社)1971年1月号~72年3月号。72年同社より単行本、75年中公文庫。
関東大震災後の混乱の中、大杉栄・伊藤野枝だけではなく多くの社会主義者・無政府主義者が捕らえられた。金子文子と民族主義者・朴烈も「保護検束」の名目で逮捕され、大逆罪(皇太子暗殺計画)で死刑を宣告された。もとより無理筋の判決である。天皇の名による恩赦で無期懲役に減刑されるが、文子は拒否し、刑務所内で縊死した。遺体は刑務所の共同墓地に埋められたが、同志と弁護士が発掘して荼毘に付した。遺骨は朴の故郷の山中に埋葬された。
瀬戸内は連載にあたり、元同志や朴の親戚に案内され、墓参りをした。
〈……私は薊の花を供える。花筒も水も何もない。雑草を抜くにはあまりにおびただしすぎる。素手で抜けるような草ではない。しかし雑草には雑草の花が咲き、紫や白やピンクや黄の、名も知らぬ小さな花々が、ほたるのように土饅頭の上を飾っているのだ。(後略)〉
文子は朴を知ったのは彼の詩から。その力強さに感動した。文子も過酷な境遇=無戸籍、虐待、貧困を強く生き抜いてきた。彼と一緒に生きたい、一緒に死にたいと思った。ふたりが生活を共にしたのは1年半だけである。文子は大逆罪を進んで受け入れ、23歳の若さで自死した。短い春、短い一生を燃焼した。
朴は日本敗戦後に解放され、朝鮮戦争中に北朝鮮に行き、そこで一生を終えた。
映画「金子文子と朴烈(パクヨル)、元町映画館で公開中。
(平野)