2019年4月30日火曜日

漱石全集を買った日


 山本善行 清水裕也 
『古書店主とお客さんによる古本入門 漱石全集を買った日』 
夏葉社 1300円+税 
 
 
 山本善行は本好きが高じて蔵書1万冊超、家が傾き出す。新刊本屋で「善行棚」をつくってもらったり古書イベントで売り始めた。これがよく売れた。経営していた学習塾を閉め、「もう古本を売るしかない」と思った。2009年「古書善行堂」を開業した。

……自分も五十過ぎやったし、どうせなら、あとの人生は何か自分の好きなこと、本に関わる仕事がしたいと思ったなぁ。〉

 本屋は本を売る、紹介するだけではない。「元気な人たちだけでなく、思い悩む人たちにとっても、暖かい場所になれる」と言う。
 
 清水は「善行堂」のお客さん、ニックネーム「ゆずぽん」。
https://twitter.com/cmukku

〈ある日のこと、清水君から、買った本はぜんぶ残っていて、買った順番もノートに書いている、と聞いたので、わたしは、それらの本を順番通り写真にして見せて欲しい、と頼みました。(中略)……人がどのように本を読んでいくのか、どんな順番で読書の幅が広がっていくのか、知りたくて仕方がなかったのです。〉

 本書にその清水棚写真あり。
 清水は人文、科学、それにビジネス系など幅広く読んでいた。「僕自身が読書に答えを求めすぎていた」。古本にハマり出したのは、まだ最近のことだそう。

〈これははっきりとしていて、夏目漱石に出会ってからですね。二〇一四年の秋ごろです。読書は好きだったんですが、実は文学に苦手意識がありました。〉

 その漱石全集を買ったのは、神戸元町の「うみねこ堂書林」、どれから読むといいかアドバイスもあった。寝る間も惜しんで次々読んで、文学苦手意識が吹き飛ぶほど漱石に魅了された。そこから文学世界が広がる、深まる。その広がり方・深まり方が尋常ではない。山本が「エライことになってしまった古本病患者」と紹介するほど、見事な古本愛好家になってしまった。
 各地の古本屋さん紹介、用語解説、本の紹介もあり。

(平野)海文堂書店のこと(すみません拙著まで)も話してくださり、感謝感謝。