2019年5月5日日曜日

古書古書話


出版目録&PR誌『海鳴り 31』(編集工房ノア)、本屋店頭でいただけるところは少なく、貴重。版元さんが送ってくださった。ありがたい、と言いつつ、本やコピーの小山に埋もれさせていた。刊行予定の石塚明子『神戸モダンの女』が気になる。

 荻原魚雷 『古書古書話』 本の雑誌社 2200円+税


 フリーライター、読書エッセイの著書他、埋もれている作家・作品を掘り起こす。《Web本の雑誌》で「街道文学館」連載中。本書は『小説すばる』連載プラス『本の雑誌』連載のエッセイ。

 龍膽寺雄(190192年)という作家がいた。昭和初期モダニズム文学の作家だが、文壇から去りシャボテン研究。魚雷は龍膽寺の『シャボテン幻想』(北宋社、1983年)を入手。
「シャボテンは、――この不思議な植物は、それが生えていた砂漠の、人煙絶えたはるかかなたの世界の孤独を、一本々々影ひいて持って来ている」
 漫画『孤独のグルメ』(久住昌之、谷口ジロー、扶桑社)の第16話で昔の流行作家がシャボテンの話をする。名前は出てこない。魚雷は、モデルはあの作家と確信する。

魚雷の読書専門科目(?)は私小説と大正の世相・思想史だろう。でもね、古本ライターとしての興味は果てしない。稀覯本、100円均一、純文学から外国文学、漫画、スポーツ、音楽、家事、オカルト本、昔のベストセラー、庶民の日記帳、それに古本業界のことや本イベント。

〈わたしはねてもさめても古本のことを考えている。/いつも読みたい本がある。その本を読みたい気持が強ければ強いほど、古本屋に行く回数が増えるから、それだけ見つかる可能性は高くなる。〉

 本から本、一人の作家から別の作家へ次々つながる。家には、読むための本、仕事の資料など、本の山脈ができる。古本屋さんに買ってもらい、イベントに出店もする。買って売り、売っては買い。

〈本の置き場がなくなるにつれ、本を買うことがつらくなってくる。新刊書店や古本屋に行っても、消沈した気分で棚をながめてしまい、「この本はおもしろそうだ」という勘も働かなくなってくる。/だったら、在庫の本を処分すればいいとおもわれるかもしれないが、売れるとおもって仕入れた本をそのまま古本屋に売るのは、自分の失敗を認めたのも同然だ。〉

『小林秀雄対話集』(講談社文芸文庫、2005年)で坂口安吾が小林に突っかかる。小林が文学世界から離れ、骨董趣味にのめり込んでいた。小林曰く、骨董趣味は「女出入りみたいなもの」だが、徹底的に経験する人は少なく、「狐が憑くようなもの」、経済的にも精神的にも家庭も滅茶滅茶になる。魚雷、納得。

〈もともと仕事のための資料集めもかねていた古本屋通いが、完全に仕事に支障をきたすようになった。なんで本業をおろそかにしてまで、副業に精を出すのか。/そうか、狐が憑いていたのか。〉

 古本病は狐のせい?
 カバー写真は、東京高円寺の古本酒場「コクテイル書房」。

(平野)
 巻末に取り上げた書店、本イベント。「海文堂書店 神戸[P90] 二〇一三年閉店。」の表記が悲しい。

《ほんまにWEB》「しろやぎ・くろやぎ」最終回。しろやぎさん、書店員卒業。お疲れ様。

《朝日歌壇5.5》より。
〈きっちりと古新聞に本を包み返してくれた戦後の昭和 (武蔵野市)中村偕子〉