2020年3月6日金曜日

戦争と検閲


3.2 労働は奇数月に1日ある休み。午前中は「ブラジル移民」次回原稿準備。
 午後、元町映画館「エセルとアーネスト」。絵本「スノーマン」で知られるレイモンド・ブリッグスが両親の人生を描くアニメーション。牛乳配達人・アーネストがメイド勤めのエセルと結婚、つかの間の平和な時代にレイモンド誕生。ヒトラー台頭、第二次世界大戦、ロンドン空爆、終戦……、激動の時代と庶民生活・文化の変遷が語られる。普通の労働者一家、子育てで悩み、戦火を乗り越え、夫婦なかよく生きた40年。静かに生涯を終える。

 本屋さんで注文していた詩論と小説を受け取り、棚から落語論。読書一貫性なし。
 買い物して帰り道、雛まつりの花を選んでいる家人と遭遇。

 ひなまつり女のまつり花まつり (よ)



 前日の「朝日歌壇」から。2月入選の長野県本屋店主のご家族だろうか。
〈継ぐ継がぬ家庭争議もありにけり結局兄は生涯本屋 (横浜市)沓掛文哉〉

 3.3 デパートはしばらく週1日休んだり、時間短縮したり。私はそれと関係なく行くところがないので終日引っ込む。録画の映画2本見て、落語3本目途中で晩飯準備の時間、中断。

 ひなまつりLINEで届く孫の歌 (よ)

 3.4 神戸生まれの詩人がPR誌連載エッセイで神戸で創業した本屋の京都店・名古屋店閉店のことに触れている。回りくどい、最果タヒ「最果からお届けします 47」(「ちくま」3月号)でジュンク堂の京都店・名古屋店閉店のことに言及。
 ある対談で最果の本を苦手な人が確実にいるという話から、苦手な本とか良さがわからない本がネットなどで好意的に紹介されていたら、世の中全てが勧めているみたいでつらい気持ちになるのでは、という話になったそう。
……ああ、やっぱり本屋さんならその横に「私はこっちの方がいい気がする!」って思える本が並んでいるからいいよね、本屋さんはずっとあってほしいな、とふと思った。〈後略〉〉
 本屋で本と「偶然の出会い」。探す、求める、それから、ふと手を伸ばす瞬間が必要。

 30ん年前ジュンク堂が京都に出店するとき、神戸の書店員・関西出版社有志が壮行会をしたことを思い出す。

 PR誌「波」3月号では、10年連載の瀧井朝世「サイン、コサイン、偏愛レビュー」が最終回。「本を作る人たちの熱意」と題して、書肆汽水域、エトセトラブックス、サウザンブックス社の活動を紹介する。



 3.6 「ブラジル移民」原稿はようやく本丸、石川達三「蒼氓」に。石川がブラジル移民に同行した記録をもとにした小説。この作品が第1回芥川賞を受賞したことを多くの方がご存知でしょう。昭和の人気作家だが、文庫で読める作品はごくわずか。「蒼氓」は秋田魁新報社から復刊されているが、本屋店頭にはないだろう。図書館か古本屋さんを探してもらうしかない。

 本屋さん、雑誌と河原理子『戦争と検閲 石川達三を読み直す』(岩波新書、2015年)。何度も検閲で痛い目にあった「へそまがり社会派作家」のこと。石川は芥川賞受賞3年後、南京陥落(南京事件)後を取材し、「中央公論」で小説「生きてゐる兵隊」を発表する。戦争の凄惨な実態を知らせるもの。「戦争掃除」は終わっていたが、石川はあちこちで死体を見、戦場の兵士たちに接触した。「中央公論」は内務省の検閲で反軍的と即日発禁。石川と編集者は新聞紙法と陸軍刑法違反で裁判。翌年有罪(禁錮4ヵ月、執行猶予3年)決定。
「ブラジル移民」とは直接関係ないが、読んでおいてよかった。「蒼氓」は発表時芥川賞受賞後「文藝春秋」に掲載されたが、伏字部分がたくさんあったそうだ(最初に掲載された同人誌にも少し伏字部分あり)。


(平野)