10.16 図書館で「西村旅館」関連新聞記事閲覧。「西村」宿泊の二葉亭四迷夫人、トルストイの息子のことなど。
午後、年初に急逝された出版人弔問。業界の人たちと共にお参りした。彼らは私よりずっと濃い交際をされていた。故人の筆まめ、几帳面な人柄のことは承知していたが、関西出版界の資料をきちんとまとめておられた。
10.18 家の修繕工事開始。1階の物置同然の部屋(ほとんど私の本)の壁と天井直し。本を2階に移動。寝る場所なんとかできた。
■ 杉山二郎 『木下杢太郎 ユマニテの系譜』 中公文庫 1995年
初版は1974年平凡社刊。杉山(1928~2011年)は美術史家、専門は仏教美術史、東西交渉史。奈良国立文化財研究所、東京国立博物館勤務の後、仏教大学などで教壇に立つ。
木下杢太郎、本名・太田正雄(1885~1945年)。生家は静岡県(現在の伊東市)の裕福な米屋。進歩的で教養ある家庭に育ち、芸術・文学を志すが、家族の同意を得られず医学者の道を歩む。医学研究(皮膚科学)の余暇に小説や戯曲執筆、美術史(天平から朝鮮・中国、インド、アラビア、ギリシア・ローマ)研究、キリシタン研究など大きな業績を残した。そのための語学習得も怠らなかった。
本書は、同じ医学者で文学者・森鷗外の系譜につながる近代知識人として杢太郎を取り上げる。「日本の近代史の激動は、その文化生活・精神生活に、いろいろな翳りを投げかけている」という問題意識。資料を探索し、「小説を書くとか、詩作する、また史学や民俗学を追究する、その人の態度なり生き方に照明をあてて、文学史や史学史のなかで位置づける操作から、さらに生活を支えてきた意欲や生活感情や美意識、創作活動の基底に厳として存在する精神、人間性(ユマニテ)まで掘り下げる」。
(平野)『百花譜』の文人医学者であり、若き日の『五足の靴』の詩人。もっと知られてよい人物。神戸旅行の随筆があるが、「西洋風」にあまり良い印象を語っていない。夫人は神戸の人なのに。