■ 『圭よ たつしやか 坂本遼詩集』 山本英孝編 大阪出版 1978年7月刊
坂本遼(1904~1970)、兵庫県加東郡東条町生まれ。関西学院英文科で竹中郁と同級。在学中に草野心平の「銅鑼」に参加。1927(昭和2)年詩集『たんぽぽ』(銅鑼社)を自費出版、郷土の言葉で貧しい農民の姿を表現した。高村光太郎と室生犀星が高く評価した。兵役のあと郷里で農業。31(昭和6)年朝日新聞社入社。41年から45年兵役。戦後は社会部、学芸部、論説委員。詩は「歴程」同人、『たんぽぽ』に連なる作品や戦争体験を書いた。48(昭和23)年、竹中から児童詩誌「きりん」に呼ばれる。
書名は手紙形式の作品シリーズから。〈おかん〉が大阪で働く息子に「圭よ たつしやか」と呼びかける。草野心平が「坂本遼を憶う」を寄稿。「たんぽぽ」
《圭よ たつしやか
つめとうなつて あさ こおりをわつてちようずをつかふのがつろうてならん
おみいを子もりにやろうとおもうが おまえはどうおもうど
こない大きいもんをあそばしといたらもつたいないはよう返事をくれ (後略)》
〈圭〉は坂本自身、〈おかん〉は母。〈おかん〉は愚痴を書きながら、息子の心配をする。〈おみい〉は近所の身寄りのない子、子もり奉公に出るが失敗して帰される。〈圭〉は短い返事で、〈おみい〉を頼む、工場でケガをした、金送れ、と書く。〈おかん〉がまた書く。
《おみいとわしがまつとるさかい はようもどれ
うちのほうでは もう たんぽぽもさいとるそないな いきうまの目をくりぬくやうな大阪がどうなるど》
〈圭〉の手紙も毎回〈おかん〉の身体を気遣っている。離れていても母子は思い合っている。
(平野)