■ 小松左京 「地には平和を」
『小松左京全集完全版』第11巻 城西国際大学出版会 2007年3月刊 (全50巻刊行中)
http://www.jiu.ac.jp/sakyo/index.html初出「宇宙塵」63号(1963年1月)
戦争を題材にしたSF。
1945年8月10日頃から、工場に動員されている中学生たちの間で戦争は負けたという噂が立つ。少数派の敗戦論者たちは殴られた。新聞で長崎に新爆弾が落とされたことは知っていた。その前の広島では不発で、軍が捕獲して研究中らしい。15日正午に予定されていた天皇の重大放送は午後2時に延期になり、さらに3時にのびた。「海行かば」の音楽と共に始まった放送は、天皇の言葉ではなく、臨時ニュース。本土決戦が宣言された。翌日から、再び米軍の「底抜けの大空襲」が始まり、ソ連軍は満州を南下。本土防衛特別隊が編成された。
《……白虎隊――誰もがそう呼びたかったが、賊軍の名だと言うので敬遠され、かわりに黒桜隊という名がつけられた。隊員は十五歳から十八歳までで、一応志願制度だったが、殆どの連中が志願した。若い連中ほど多かった。今度は本当の武器が持てる本当の戦争だ。》
中学生河野康夫も志願。敵は本土に上陸、中学生たちは戦車隊を迎え撃つが惨敗。康夫は長野のどこかにある大本営を目指す。康夫は負傷、最後の手榴弾で自害しようとするが、果たせない。目の前に金髪の青年が現われ、妙なアクセントの日本語で話しかけてきた。
「僕はこの世界とは関係ない。……二時間前やっとこの世界を見つけた所だからな。……この世界は、あと五時間一寸で消滅するんだ……」康夫にはチンプンカンプンの話、なおも自決を試みる。
《「やめてくれ!」と青年は哀願するように叫んだ。「やはり見殺しには出来ない。説明してやるからそんなに死にたがるな。――いいか、君、この世界はまちがってるんだぜ(原文傍点)……」》
青年は5000年の未来から来た時間管理庁特別捜査局員。時間犯罪者が歴史を作り変えようとしていた。青年は康夫に本来の歴史を見せる。
《――日本が負けたなんて、そんなバカな! 日本にかぎってそんな事はあり得ない。……だがあり得ない事ではない、という恐ろしい想像が、意識のカーテンの影から、静かに姿をあらわそうとしていた。――馬鹿野郎! 彼は必死の力をふりしぼってその想像と闘った。お前は、死におよんで日本人としての信念をなくしたのか! そんな事はあり得ないんだ。それでは、すべての日本人の死、俺の死がむだになってしまう……(後略)》
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