■ 『脈』 第92号 特集 島尾敏雄生誕100年・ミホ没後10年 脈発行所 1200円+税
梯久美子『狂う人』を読んで、作家夫婦の〈狂気〉を知り重い気持ちになった。本書で子息の文章を読んで辛くなる。
《あんなにぼくや妹に失礼極まりないことをやっておきながら、おとうさんとおかあさんは死んでからも、生前そうであったようにぼくのお金や精神や肉体を奴隷のようにこき使います。いいえ、そんなことが負担になっている訳ではありません。彼らはまだ死んでいないかのように不気味です。》
彼にとっては「文学に夢中の人たち」も迷惑な存在。
《哲学も文学も科学も、毎日を穏やかに生きるものには迷惑なのです。彼らは言葉を支える嘘に鈍感で、思い込みを表現としているらしいのです。あーむかつく。書けば書く程、自分が悪人になったようで、ちっとも憂さ晴らしにはなりそうにありません。
そんな気分のぼくが書いたものさえ、文学のネタになると思うなら読んでくださるのでしょう。》脈発行所は沖縄県那覇市の出版社。地方小出版流通センター扱いだが、沖縄以外で店頭に置いている本屋さんは少ない。京都の三月書房にはある。
(平野)