■ 大野裕之『チャップリン 作品とその生涯』 中公文庫 920円+税
大野は1974年大阪府生まれ、映画・演劇学研究、日本チャップリン協会会長。推薦文の黒柳徹子は名誉会長。
大野は小4のときテレビで『独裁者』を見て、チャップリンのすごさを知った。読者がチャップリン映画の魅力を発見することを願う。
《悲しいことに、世界はますます混迷を深めている。頻発するテロや人種の対立、不寛容な指導者たちの登場を指して、新たな戦前を危惧する声もある。/そんな時代だからこそ、あくまで自由なチャーリーと、悲しい時は一緒に泣いて、どん底にいる時でも笑顔を忘れないでいたい。そして、社会の不条理に抗して闘うことのできる唯一の武器とは、あの愛に満ちた笑いであるということを思い出したい。――そう、今こそ私たちには、チャップリンの、温もりのあるユーモアがどうしても必要なのだ。》
チャップリンは大の親日家。その初来日時(1932年)、ちょうど海軍将校らによって犬養首相暗殺事件〈五.一五事件〉が起きた。チャップリンも将校らによって標的にされていた。偶然と日本人秘書の気配り、それに自分の「気まぐれ」行動でテロを免れた。大野は当時を再現して、「このときの海軍将校側とチャップリン側の動きは、まさにサスペンス映画を地でいく展開」と書いている。
(平野)