2017年11月21日火曜日

戦争育ちの放埒病


 色川武大 『戦争育ちの放埒病』 幻戯書房 4200円+税

 単行本・全集未収録の随筆86篇。


「本が怖い」

〈本屋にはわりに頻繁に出入りする。びっしり並んだ本を、ただ黙っていつも眺めている。ああいうときの、ふわッと自分が軽くなっていくような、とめどなくぼんやりして眠くなってしまうような気分が悪くない。〉

 本はあまり買わないが、あれこれ買ってしまう。でも、読まない。買って家にあるとページを開いて読んでしまう。本は読まないようにしたい。買って置いておくだけでも健康に悪いのに、読んでしまったらどうなるかわからない。作家になってから、「本を開けるのが怖い」。読み出したら萎縮して書けなくなると思う。

〈情けないが売文しなければ生活がおぼつかない。したがってできるだけ毒にも薬にもならぬことを記して、社会のお邪魔にならぬよう隅っこでお茶を濁している。が、ほかの人はそうではあるまい。本というものはそれなりに著者の力の結晶であって、そういう力感に私は出遭いたくない。私は何も見ず、何も聞かず、何も読まず、このままなんとかごまかして手早く一生を終えてしまいたい。〉

 色川は戦争ですぐ死ぬと思っていた。どんな死に方をするか、死ぬまでどう生きるかしか考えなかった。戦争が終わって生き延びた。歓喜と同時に、死んでいった人たちのむなしさを思う。

〈一度あったことは、どんなことをしても、終らないし、消えない、ということを私は戦争から教わった。〉

 色川の「戦後」は終らなかった。

(平野)