《ゴッホ展 巡りゆく日本の夢》 京都国立近代美術館
3月4日まで(月曜休館)
テーマはゴッホと日本。ゴッホはじめ印象派の画家たちは日本の浮世絵に大きな影響を受けた。ゴッホ作品に触れた日本の文化人たちはゴッホゆかりの地を訪れた。
「寝室」(1888年、ファン・ゴッホ美術館蔵)という絵が出展されている。アルルでゴーギャンと共同生活をした家。ゴッホは同じ構図で3枚描いた。1921年、松方幸次郎がその3枚目(現在オルセー美術館蔵)を買い取った。松方のコレクションは様々事情があってパリで保管されていたが、第二次世界大戦中にフランス政府に没収された。戦後、日仏政府間で交渉がまとまり、ほとんどが日本に返還されたが、「寝室」はそのリストに入らなかった。フランスにしても手放せない至宝である。言うて詮無いことながら、様々事情がなければ、上野の美術館に所蔵されているはずだった。
バージョンが違うにしろ、会場や図録でその経緯について説明があってもいいのではないか、と思う。
写真、上が1枚目(会場で購入した絵ハガキ)。下が3枚目(『オルセ美術館 絵画』みすず書房、1989年より)。
当時松方の絵画購入に付き添った美術史研究者の証言。
〈私がもっともひどく松方さんをじりじりさせたのは、たしか画商のローザンベールのところであったか、ヴァン・ゴッホのすばらしい「寝室」のほかマネー、ルノアール等の優品が3、4点売りに出て、私がまるで興奮してしまった時であった。殊にこの「寝室」は稀代の傑作で、これはどうしても日本に買って行って下さいとせがんだ。ヴァン・ゴッホはアルルで、この同じ「寝室」はたしか三枚描いていたと思うが、私はこの「寝室」が一番よいと信じている。ガラス窓に当る南フランスの陽の輝き、それが床に反射し、壁にかけた自画像に反射し、すべて黄色の光焔になって燃え立っているような狂熱的な画で、誰だってこれを一目見て夢中にならざるを得ない。〉
(矢代幸雄「松方幸次郎」、1989年《松方コレクション展》カタログ所収)
松方は画商と丁々発止の交渉をする。矢代は真っ正直にこれを買うべき、あれはダメと言うので、交渉の邪魔。この時も松方は取り合わず、矢代は失望。しかし、松方はちゃんと購入していた。
(平野)複製画と絵ハガキ購入。