■ 俵万智 『牧水の恋』 文藝春秋 1700円+税
旅と酒を愛した歌人・若山牧水(1885~1928年)。恋の歌も多数ある。ある女性を思い、それが叶い、結ばれたものの疑い、煩悶し、別れた。その熱い思いを発表した。
代表作「白玉の~」も酒だけの歌ではないそう。
〈白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ〉(のちに「べかりけり」と改作)
明治43年の作品。牧水は恋にやぶれ、身体を傷めつけるように酔い、放蕩の日々を過ごした。
〈ただ単純に、酒好きの酒飲みが秋の夜長にちびちびやっただけでは、名歌は生まれない。この一杯にたどりつくまでの葛藤と苦しみが、目に見えないところで歌を下支えしているのである。〉
この歌と同時に発表された歌。
〈かたはらに秋ぐさの花かたるらく亡びしものはなつかしきかな〉
「亡びしもの」とは苦しんだ恋の終わり。「なつかしきかな」という言葉から、失恋も「人生の宝物だった」。彼女には牧水と結婚できない事情があった。
俵は牧水研究書を参考にしながら、歌人として歌を分析し、詠まれた場所にも足を運ぶ。
恋の絶頂期の歌もひとつ紹介。
〈山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇を君〉
牧水はこの女性のことを一生かけて思い続けていた。恋は終わっていなかった。
文学史に名を残す人はすべてを晒されてしまう。いや、本人がすべてをさらけ出したのだ。
(平野)牧水がこの女性と出会ったのは神戸。
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