■ 梯久美子 『愛の顛末 恋と死と文学と』 文春文庫
720円+税
2014~15年日本経済新聞に連載。単行本は2015年文藝春秋、このときの副題は「純愛とスキャンダルの文学史」。
梯による原民喜評伝で彼と妻の固い絆・愛を知った。
まだまだ「愛の顛末」があるが、そこには作家たちの「隠しようもない姿」もあらわにされる。
〈恋の時間、結婚の時間の中では、美点も欠点も、可愛いところも困ったところも、崇高なところもずるいところも、余すところなくさらけだされてしまう。〉
戦中三浦綾子は教職にあった。自らの責任を問い、辞職。自暴自棄か、同時にふたりの男性と結婚の約束をしてしまう。結核にかかり、絶望のなかで自殺を図る。寝たきりの綾子は幼なじみの医学生・前川によって生きる希望を取り戻す。その前川も結核を病み、死を覚悟。前川は遺書で、綾子が人生を自由に生き、愛する人をみつけることを望んだ。やがて綾子は自分を支えてくれる夫と巡りあう。
恋した女性の許嫁に「譲ってくれ」と懇願した中島敦。女性をめぐり先輩作家と決闘した梶井基次郎。乳房を喪失しても恋の歌を詠み続けた中城ふみ子。最初の妻と二人目の妻を病気で失い、三人目の妻に見送られた寺田寅彦。出会ってすぐ出征し、四年間戦場から手紙と歌を書き送った宮柊二。妻の前夫・八木重吉の詩を世に出した吉野秀雄。他に、近松秋江、鈴木しづ子、吉野せい。
作家たちのさまざまな愛の姿とその死は、美しい、悲しい、激しい。
(平野)
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