2026年8月26日水曜日

茨木のり子全日記Ⅰ

8.18 歯科定期診療。20数年通っているのに、院長以外のスタッフさんの名前まったく知らないできた。皆さん名札つけていない。長く担当してくださった衛生士さん何人もいらしたのだが(最長5年)……。インターン研修(?)の人が何度か名前を呼ばれていて、初めて知ったのが○○君。

8.23 「朝日歌壇」より。

〈本好きの意地を感じる絶やすまいと本屋のあとに本屋ができて (東京都)白河清〉

8.24 残暑と言うにはあまりに暑い。日本の暦とはますますかけ離れる。若い時は、流れる汗は仕事終わってビールで補給、だったが、もうガブガブ呑めない。

 

『茨木のり子全日記Ⅰ 19491952/1955-1962』 katsura Books 5000円+税



 詩人・茨木のり子(19262006年)の日記全3巻の第1巻。本年は生誕100年、没後20年にあたる。

1巻は詩人23歳から35歳の頃。三浦安信と結婚し、大岡信、谷川俊太郎らと同人誌に参加、「茨木のり子」のペンネームで詩作。ラジオドラマの台本や書評記事を執筆。有名な「わたしが一番きれいだったとき」は57年(昭和32)発表だが、日記には言及なし。私生活では新婚生活(献立、家計のやりくり、甘い生活も口喧嘩も)から家族・親戚・ご近所付き合い、本や演劇・映画の感想、それにマイホーム建設までの苦労も綴られる。

 婦人雑誌編集者から詩を依頼されて原稿を渡すが、ダメ出しされて。

〈……字数を揃えることや、こまごましたこと、きいていると馬鹿らしくなってきて、しまいにはムカムカしてきた。マスコミというか、ジャーナリズムというか、そういうものが「詩」をどう考えているのかが、歴然とわかった。ツマミ程度にしか考えていないのだ。よくよく注意して引きうけねばならない。〉(19581月の記載)

(平野)

2026年8月16日日曜日

世界の書店を旅する

8.10 「NR出版会新刊重版情報」着。1969年、人文・社会科学系の小出版社8社が集まり、「NRの会」を結成。名称は「NR出版協同組合」を経て「NR出版会」。増減しながら現在7社が加盟して、営業活動などを共同で行っている。70年から「NRの会新刊・重版情報」を発行。このたび通巻600号となった。出版情報に加え、出版人・書店人による連載コラムがあり、ヂヂイも何度か書かせてもらった。本号にも2017年イチさんイトさんと並んだ写真が掲載されている。



8.11 図書館でハーンさん調べ。2階のふるさと文庫コーナーで海文堂書店の書皮とチラシ展示中。11月末頃まで。ありがとうございます。

https://www.city.kobe.lg.jp/a09222/kosodate/lifelong/toshokan/event/exhib2f.html

 

8.12 地球温暖化、日本亜熱帯化。関東地方に台風上陸して西に進んできた。あちらは被害大きい。台風のあと線状降水帯発生して豪雨。お見舞い申し上げる。

8.15 敗戦の日。図書館でハーンさん調べ。

 

ホルヘ・カリオン 野中邦子訳 『世界の書店を旅する 増補新版』 白水社 3800円+税 2013年原書初版、2019年邦訳初版。2025年原書版を反映して改訳、解説追加。



 著者はスペインの作家・文芸批評家。各地を旅して、書店を訪問し、佇まいや品揃え、歴史、ゆかりの作家・芸術家、お客と書店人たちの姿を紹介する。国・地域によって本の流通や書店の形態は少し異なる。著名な書店は、新刊・古書を併売し、出版もし、お客たちにコーヒーやワインを提供し、サロンとなる。世界中の読書人に名を知られる書店、最古の書店、最大の書店、世界の果ての書店……、本の歴史、印刷・出版の歴史をからめながら、いろいろな書店とお客、文化人とのエピソードを綴る。

世界レベルで書店がなくなっている。その大きな要因は言うまでもなく、書籍のオンライン販売の普及。画面で在庫がわかり、注文すればすぐに届く。都市部の繁華街は家賃高くで書店の収益では営業できない。書店が減ることでますますオンラインが増える。何より読書人口が減っている。それでも著者は紙の本と書店・書店人の力を信じている。

〈都市を再訪するたび、私はお気に入りの書店へ足を運ぶことにしている。とくに興味を引かれる店、感情や知識と強い絆が結ばれた店。時にはすでに閉店していることを知ったりもするが、ひどくがっかりはしない。というのも、たいていの場合、別の書店がオープンしているからだ。それらがやがて私の人生にとって大事なものとなり、なによりも書店が存在するその街にとって重要になる。都市や図書館や肉体と同じように、書店も層を重ねてゆく。そしてその層は存在と不在の両方でできている。〉

 閉店で「鋭い痛みを伴う」こともある。各地で独立系書店が増え、カフェやホテル、工房など多様な形態を備えて連携している地域もある。進展する通信情報技術、流通ネットワークは一人ひとりの人間とつながって、書店・書店人とも共生して力を発揮する。

〈……紙の本――あの完璧なテクノロジー――はデータベースに登録され、たぶん植物や猫たちに囲まれ、同じく共生関係にある書店員たちに付き添われ、さまざまな存在論をもつ関係性のシステムを構成する。それはやがて読者、支援者、大勢の常連客からなるコミュニティへと広がり、その相互作用は個人に影響を与え、あるいはワークショップや読書会を促し、ソーシャルメディアを通じてデジタル空間にも波及する。紙の本にしか手を出さない読者――私もそのひとりだ――にとってさえ、現代の読書はつねにサイバネティックである。(中略、書店は、21世紀のハイパービューイング・プラットフォーム=視野が広く対応速度の速い環境基盤であり、情報を理解するための中心)だからこそ私たちは書店をつねにアップデートし、大切にするべきなのだ。書店に去られたくなければ、書店を見捨ててはいけない。〉

 本書文中に登場する日本の書店は、リブロ(村上春樹がウェブ上でファンと交わしたやり取りが本になっていて驚く)、丸善(若き日の黒澤明が立ち寄ったが店は閉まっていて、その2時間後に関東大震災で焼け落ちた)。写真、「蔦屋書店」「SHIBUYA PublishingBooksellers」「ロス・パペロテス」。

著者の回想。〈子供時代、とりわけ思春期に、人は書店と恋に落ちる。〉

私が購入した書店で、小冊子「紙はどこで終わり、ディスプレイはどこから始まるのか?――疑問符に満ちたソウルへの旅」をいただいた。

本との偶然の出逢い、などというロマンはもう通用しないのか。私は書店という空間にいることだけで楽しかった。

(平野)

2026年8月9日日曜日

三鬼

8.6 日本の夏は敗戦の夏。えらい人ほど改めて不戦の誓いを。

林哲夫さんのnote記事で728日渡辺一考さん逝去を知る。コーべブックスの編集長、南柯書局主宰、幻想文学や俳句の限定本を見事な書物に作り上げた。古書蒐集でも知られる。また、東京でバー「ですぺら」を経営(のち西明石に移転)。私はコーべブックス新米書店員だったので編集部に関わっていないけれど、酒の席は何度かご一緒した。別のSNSで神戸新聞訃報記事があり、本名は一孝(かずたか)と知る。喪主である「妻」にコーべブックス先輩の名。落ち着くところに落ち着いたのだと想像する。ご冥福を祈ります。

8.8 図書館、ハーンさんのこと。

BIG ISSUE532号、特集〈非戦・平和へ。集いと対話〉。表紙とインタビューはミュージシャンのSUGIZO、環境・平和・人権問題など精力的に活動する。



8.9 「朝日歌壇」より。

〈「茶の本」も「風姿花伝」も百円だ学生時代の岩波文庫 (高崎市)小島文〉

 私の時代は☆印で表示。☆ひとつ50円だったのが、だんだん上がっていった。

 

 小林恭二 『三鬼』 講談社 2500円+税



 太平洋戦争開戦前、日本は中国との戦争からさらに南方進出をめざし、国内では文化・思想を厳しく統制・弾圧していた時代。主人公は新興俳句のスター・西東三鬼。1940年(昭和15)「京大俳句事件」。治安維持法違反で三鬼の仲間が一斉検挙された。戦争や社会主義を題材にし、退廃趣味や性までも詠い込む。「戦争が廊下の奥に立つてゐた」の渡辺白泉も同人。しかし、なぜか中心人物の三鬼は逮捕されず、特高の尾行がつく。一方陸軍が彼を護衛。陸軍がなぜ? 

著者・小林の筆はどこまでが史実で、どこからがフィクションか不明。三鬼の実家である美作の齋藤家は室町時代からシンガポールで交易し、同地の華僑と義兄弟の契りを結んでいた。江戸時代途切れたものの、明治になり復活。三鬼が彼の地で歯科医を開業したのもその一環。陸軍は南方への足掛かりとして三鬼のコネクションを求めた。インド独立運動もからむ。

また、小林は俳句弾圧について、当局の狙いは新興俳句ではなく、伝統俳句の総帥・高浜虚子と300万人の愛好者を軍国体制の完全協力者にすること、とする。

三鬼は女性にもて、家族と別れ、社交界、ゴルフ、ダンスを楽しむ不良中年。特高に狙われ、陸軍から誘われる。愛する女性・市子は結核末期、そばにいたい。獄中の俳句仲間を思えば特高に降るべきだが、命が危ない。陸軍に従えば助かるが、外地の義兄弟たちが滅亡する。

40831日、三鬼は鎌倉に友を集め、市子との結婚披露パーティーを開く。三鬼の決断はいかに? 

小林、17年ぶりの新作小説。

(平野)

2026年8月6日木曜日

ハイカラ右京探偵暦

8.1 朝、図書館でラフカディオ・ハーンのこと。帰宅後、本屋さんで昭和の俳人「西東三鬼」を主人公にした小説購入。戦中戦後三鬼は神戸で過ごすのだが、それ以前のことを題材にしている。

8.2 「朝日歌壇」より。

〈夫を継ぎ長く老女の営みし書肆(しょし)に閉店告げる貼り紙 (観音寺市)篠原俊則〉

8.4 家人多忙、ひとりで京都。〈歌川国芳展〉京セラ美術館と大谷本廟墓参。美術館開場まで時間あり、しばらくぶりに平安神宮参拝。美術館も現在の姿になって初めて、地下が入口になっている。家人指令の買い物をして帰宅。



 孫(姉)のピアノ発表会動画届く。上手上手、リズミカルな曲を軽快に弾いて、ヂヂイ汗引く。ヂヂバカちゃんりん。

 

日影丈吉 『ハイカラ右京探偵暦』 現代教養文庫 社会思想社 1978



 日影丈吉(本名片岡十一、東京市深川区(現江東区)出身、19081991年)、作家、翻訳家。アテネ・フランセ在学中に坂口安吾らと同人誌創刊。卒業後、フランス語教師、料理研究。1949年雑誌「宝石」の懸賞小説で入選した「かむなぎうた」でデビュー。

 主人公はハイカラ紳士・右京慎策。

〈明治の中葉にその名をとどろかした怪人物。欧米諸国の秘密警察でも恐れられていた国際スパイで、故国にいる時は総理大臣の内命や警視総監の懇請、あるいは民間の紳商や庶民の依頼、時にはだれに頼まれないでも、変った事件なら自分から買って出て、これを人間社会の探究と自ら称し、奇想天外の推理力を振う私立探偵。〉

 ライバルで相棒にもなるのが警視庁随一の腕利き・吾来警部。西南戦争で顔に火傷を負い独眼、強面ながら温厚篤実。吾来が銀座を歩くと必ず事件にぶつかり、また必ず右京が絡んでくる。

 文明開化が進むなか、まだ江戸の情緒や慣習が残る。痴情のもつれ、近親のもめごと、復讐、政治家暗躍、幽霊(?)登場など猟奇的殺人が起こる。科学捜査や法医学は緒についたばかり、外国人の治外法権という制限もある。右京は天才的な頭脳と広い人脈を駆使して難事件を解決する。人情厚く、目こぼしもする。かと言って聖人君子ではない。悪人のうわまえをはねることもある。最後に吾来の恋の面倒も見る。

『仮面紳士 ハイカラ右京探偵全集』(光文社文庫)の新聞広告を見たのち、古本屋さんで本書発見。

(平野)