2024年10月6日日曜日

本の身の上ばなし

10.4 「朝日新聞 鷲田清一 折々のことば 3224」より。

〈いま読まれていないもの、関心をひかないものは何か。それを考えれば、逆にこの時代がどんな時代なのかが見えてくる  荒川洋治〉

 鷲田解説。売れないものには冷たい。本もそう。「読まれていないもの」こそ時代に欠けているもの。〈(荒川は言う)実際、採算が合わずとも「後世のために」出しておきたいと考える人が昭和の頃までは大勢いたと。〉

10.5 大阪梅田に出る家人に「BIG ISSUE」を買ってきてもらう。8月から5冊。

 


 出久根達郎 『本の身の上ばなし』 ちくま文庫 

880円+税



 著者得意の書物と人間のドラマ。201910月から2010月まで「日経新聞」に週1回連載した「書物(ほん)の身の上」を改題。イラストは南伸坊、連載時の挿絵のまま掲載。

〈有為転変は人の世の習いだが、書物にも数奇な運命がある。本の身の上は、本にかかわる人の物語でもある。(後略)〉

 俳優・高倉健のエッセイからはじまる。飛行機内で見知らぬ人から話しかけられる。煩わしく思うが、同郷人とわかり、「迷惑な、という思いが薄れていく」。

 出久根は高倉の故郷福岡県中間市底井野(そこいの、旧筑前国遠賀郡底井野)の主婦の日記を紹介。小田宅子(いえこ)は両替商の娘、国学と和歌を学ぶ。天保12(1841)年53歳の時、同門の女性たち(従者も)と伊勢参り。名古屋、善光寺、日光を経て江戸。帰りは甲府、上諏訪、京都をまわり大坂から船に乗る。女性の長旅が珍しい時代、5ヵ月800里の大旅行だった。10年後「東路(あずまじ)日記」にまとめ、子孫に遺す。1950年代になって学者が発見、世に知らされた。名所を歌に詠み、関所破りの冒険や怖い男どもにつきまとわれる事件も記録。田辺聖子が小説(『姥ざかり花の旅笠』)にしているそうだ。

 出久根文章最後の一行。

〈うっかり言い忘れる所だった。高倉健は宅子の直系の子孫である。〉

 歴史上の人物、著名な作家・学者からその家族や無名の庶民まで、古書や古文書から見つけたあんな話、こんな話56話。あとがきには連載中に読者から届いた反響(誤り指摘、関係者からの手紙など)も。宅子の歌と高倉健の映画で閉じる。

(平野)