■ 和田誠 『聞いたり聞かれたり』 七つ森書房 2300円+税
(その4)終わり
岩城宏之
頚椎手術で入院中、お見舞い対談。
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(岩)指揮者は一日に午前午後オーケストラと練習すると、おそらく四、五万回手を振ってます。しかも、ぼくは普通のタイプの指揮者としては世界でいちばん現代音楽をやるし、現代音楽には変拍子が多いでしょ。拍子を壊すわけです。その衝撃が全部頚椎に来るんですね。三〇年間絶えずムチ打ち症を続けたようなものです。(略)ぼくは人が作ったものを人に弾かせるという変な商売でしょ。二百年も前の西洋のオジサンが作った曲を偉そうな顔をしてやっていれば人の何倍も稼ぐんだけど、どうもそれが厭でね。せめて今生きてる他人が作った曲を今やって、今生きてる人に聴かせたい、そのインフォメーションを未来に送るということをしたい。現代の音楽をやるという気持ちだけはなくならないでしょうね。
……
「聞かれたり」は、和田が監督した映画作品についてのインタビューと、イラストレーター志望者のための私塾「峰岸塾」での講演。
映画
「麻雀放浪記」が決まって、たまたま旧知の女優に会った時に、「どんな監督がダメな監督か」尋ねた。
……
(Q)いい監督ではなく?
(A)普通はそう聞くでしょうね。彼女はたくさんの名監督の映画に出てますから、名監督の仕事ぶりを話してくれたかもしれない。でも初対面のぼくには真似できないだろうと思ったので、ダメなほうを聞いたんです。ダメなほうを真似しなければいいんだから(笑)。
(女優の)答えは「決断できない他人」だったんです。それでぼくは現場で考え込んだりしないようにしてたわけ。だからOKかもう一回か言うのは早かったですよ。
(Q)新人監督が現場でいじめられるという話を聞きますが。
(A)昔の話ですよ。ライトが落ちてくるとかいう話もありますけど伝説だね。むしろ優しくしてくれましたね。わからないことは親切に教えてくれるとか。いいスタッフでしたよ。
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イラストレーション塾
講演といっても「講義」ではない。「批評」もできない。そういうことに「まったく自信がない」。「質問に答える」ことだけ。
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(Q)イラストレーターに必要な資質は何でしょうか。
(A)まず絵が好きなことですね。好きだという気持ちをキープすること。飽きないこと。あとは才能も必要だし、毎日イラストレーションを描くんだという心構えも必要ですね。それがあれば上達もするでしょう。
ぼくの場合、資質を持ってたかどうかわからないけど、とにかく子ども時代から絵を描くのが好きだったし、それが今でもずっと続いています。絵を描くことが楽しくてしょうがない。酒場で飲んでいてほろ酔いでも、グラスの下のコースターに何か描きたくなるんです。
……
あるパーティーで知らない人の似顔絵を描いていたら、その人がくださいと、持って帰り、のちに名刺に使ったということもあった。
和田誠の絵をタダで。
◇ 12月6日 金曜日
映画「ペコロスの母に会いに行く」、アートビレッジセンター。時間を間違えて、一旦帰宅して買い物に。
考えてみたら、本日妻以外の人と話したのは、スーパーのレジの人に「袋なしで」、八百屋の人にネギ折っていいかと訊かれて「いいですよ」、映画館で「シニアでお願いします」、以上ワンフレーズ3回のみであった。
(平野)