■ 『タルホ★スペシャル』 別冊幻想文学(3) 幻想文学会出版局 1987年12月刊
目次
稀覯本グラフィティ
PART1 未知なるタルホを求めて
○チンハツト氏とデドメン君の銷夏法
○単行本未収録&ヴァリアント作品集 相馬先生の問題 郁さんの事 枕べの蕈 他
PART2 タルホニウム文学館
須永朝彦「少年愛の苦学」 鎌田東二「モノノケ・タルホトピア」諸星翔、佐藤春夫、衣巻省三、矢川澄子、山尾悠子 他
PART3 タルホランド・ガイドマップ
○私のタルホ体験 春山行夫 椿實 萩原幸子 他○タルホ紀行 赤井敏夫「タルホのいた三つの風景」
○タルホ入門 高橋康雄 加藤幹也
○稲垣足穂著書目録&書評選
[編集協力・資料提供] 高橋康雄・渡邊一考
[表紙絵] 梅木英治 [編集人] 東雅夫
「郁さんの事」より
何や、郁さんの事か。郁さんとワイとは比較的最近やで。(略、神戸の詩の世界では有名だった)あれが神戸の竹中氏やと、いつぞや新宿の駅で教えてくれた人があったが、振り向くともう見えなんだ。(略)「あんな紅顔美少年が何や」「あんな気障なもん殴って了え」とか、こんな言葉は、昔から、郁さんについて聞いとった。が、会うてみたら、そうでもないな。そういう事を云う者は、竹中郁を知らんか、そうやなかったら頭の悪い男やな。郁さんは、その名の示すとおりの我日本の新らしき、海港の詩人やな。これは一人よりないな。……
(「文藝汎論」昭和11年2月 原文は正字・旧かな)
足穂は関西学院の先輩にあたる。在学期はちがう。昭和7年(1932)12月堀辰雄が神戸に来た時(堀の小説「旅の絵」に書いている)、竹中は明石の足穂宅に連れて行った。足穂は東京から戻り、古着屋を営んでいた。その日をさかいに、二人の会話は「さよか」「そうや、そうや」、「郁さん」「タルちゃん」となったそう。
(平野)