■ 野呂邦暢著 岡崎武志・小山力也編集 『野呂邦暢 古本屋写真集』 盛林堂書房 2500円税込
岡崎武志が野呂の随筆選集を編集したことが縁で、ご遺族から託された写真。版元は荻窪の古本屋さん。
「澄んだ日」より
上京した野呂は月2回の休日、古本街をまわる。10円20円の均一箱。その日、高円寺の古本屋で1冊の本が目にとまる。カミュの「結婚」だったらしい。
……書名を正確に記憶していないが、小説でなかったことは確かだ。なぜ心もとないかといえば、私はその書物を買わなかったからである。扉の裏に二行のエピグラフが引用してあった。ヘルダーリンの詩である。
――しかし汝、汝は生まれた 澄んだ日の光のために――私はこの二行を頭に刻みこんでそっとページを閉じ、本を箱に戻した。皮膚に電気のようなものが走った。強い光で骨の髄まで照らしだされたような気もした。私は大股に歩きながら深く息を吸って吐いた。見馴れた高円寺駅周辺の風景が、別世界のそれであるように思われた。
林哲夫さんのブログを見ると、上記の詩は「結婚」にはない由。
ますく堂さんありがとう。