2015年4月7日火曜日

友は野末に


  色川武大 『友は野末に 九つの短篇』 
新潮社 2000円+税

表題作他私小説9篇。うち「蛇」は未完。
 嵐山光三郎、立川談志との対談、夫人インタビュー収録。


「友は野末に」

 某日、小さなホテルにこもって仕事をしているとき、家からの電話でまた一人の友の死を知らされた。五十をすぎるとそういうことが頻繁になってきて不思議はないし、自分の命だって風前の灯なのだから、他人が死のうと日常茶飯のことといえなくもない。

 幼稚園、小学生時代の友人・大空くんの訃報。「私」はナルコレプシーという病気で睡眠のリズムが狂い、幻影を見る。見たい幻影を出現させることもできる。大空くんも現われた。彼の母親も出てくる。学校でのこと、遊びのことを思い出す。彼は癇癪持ちで先生も持てあますような子。「私」も別の意味で調和を乱す子だった。遊びでは電車ごっこ。畳の上の遊びが過熱して、自転車を使って道路で。時刻表も作った。だが、交際は中学生になると途絶えた。30年ほどの間、彼は子供の頃のまま「私」の幻影の中に現われていた。現実では手紙が来た。故郷で山の宿を開いているらしい。消息通の級友から近況を聞くこともあった。入院したと聞いた。

……退院して一ヵ月もしないうちに、あっけなく死んでしまった。急性の心臓麻痺だそうだが、家族が居ないからくわしいことは東京の誰にもわからない。消息通の級友によると、大空くんは以前にアルコール中毒の前歴があるそうで、またヤケ酒でも呑んだのではないか、という。
 いずれにしても、どういう一生だったか、肝心の盛りの時期を知らないが、子供の頃の熱い表情を私の念頭に残したまま、大空くんは一人野末で死んでしまった。

「卵の実」では神戸の親戚が登場。「奴隷小説」「吾輩は猫でない」でマゾを告白。

(平野)色川は198960歳で亡くなった。私はその年齢を超えてしまっている。